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2004年8月号

PID制御のお話

第7回  オフセット除去のメカニズム

ワイド制御技術研究所 所長 広 井 和 男 

 前回、PI制御系では、偏差がなくなるまで修正動作をし続けるI制御の機能によって、P制御系で発生していたオフセットを除去できることを説明しました。今回は、I動作によってオフセットが除去できるメカニズムを考えてみましょう。

1.負荷増加時のオフセット除去
 加熱炉の温度制御で負荷(原料流量)が増加した場合に、PI制御ではオフセットを除去できるメカニズムを図1に示します。図において、x軸は温度T(℃)、y軸は操作信号MV(%)です。また、点線は負荷特性曲線を、実線はPおよび PI制御特性直線を示します。目標値Ts(℃)と負荷特性曲線の交点Aにおいて、P制御特性直線が交叉するようにP制御のバイアスbを調整して、その値をA とします。その後のP制御特性直線は(1)式で表されます。

 今、A点、つまり目標値Ts、負荷(原料流量)1、バイアスがA で、偏差がゼロのバランス状態にあるとします。この状態から負荷が2 に増加した場合にも温度T を目標値Ts に維持するためには、操作信号はB点に相当するB になる必要があります。しかし実際には、P制御では(1)式で制御されるため、P制御特性直線と負荷特性曲線2 との交点Cで安定し、オフセット(TsTc)が発生することになります。
 ところが、PI制御では制御式が(2)式のようになります。

 つまりPI制御にすると、偏差e をゼロにするバイアスが、(2)式に示すようにA をスタート点として偏差e の積分値によって自動的に修正されることになります。すなわち、偏差e の大きさに比例した速度で、偏差e がゼロになるまで、バイアスの大きさを修正し続けます。図1において、負荷が1 から2 に増加すると、偏差をゼロにするバイアスがA からB に偏差e の積分値によって自動的に修正され、定常偏差e はゼロになり、オフセットが除去されて制御量が目標値にピッタリ一致することになります。
 あらかじめゼロと定めている状態に戻すことをリセット(reset)するといいます。積分動作は、偏差e をゼロにするようにバイアスの値を修正することからリセット動作(reset action)とも呼ばれています。偏差e がゼロになるようにバイアスの大きさを手動で調整することを手動リセットと呼び、積分動作で自動的に調整することを自動リセットと呼びます。

2.負荷減少時のオフセット除去
 詳しい説明は省略しますので、前記1項の負荷増加の場合を参考にしながら作図して、負荷が減少した場合に、PI制御ではどのようなメカニズムでオフセットを除去できるかを確認してみてください。

3.目標値上昇時のオフセット除去
 原料流量(負荷)は一定の状態で、目標値を上昇させた場合に、PI制御でオフセットを除去できるメカニズムを図2に示します。図において、目標値をTs 1 からTs 2 に上昇させた場合、目標値がTs 1のときには偏差をゼロにするバイアスが交点Aに対応したAであったものが、目標値がTs 2になったときには偏差をゼロにするバイアスは交点Fに対応したF にする必要があります。これに対して、PI制御では制御式が(3)式のようになり、偏差e をゼロにするためのバイアスは、A をスタート点として偏差e を積分することによって、偏差e に比例した変化速度で、偏差e がゼロになるまで自動的に修正されて交点Fに対応したバイアスF になります。

 このように偏差e をゼロにするバイアス値が自動的に修正されて偏差e はゼロになり、オフセットが除去されて制御量が目標値にピッタリ一致することになります。

4.目標値降下時のオフセット除去
 詳しい説明は省略しますので、前記3項の目標値上昇の場合を参考にしながら作図して、目標値を降下させた場合に、PI制御ではどのようなメカニズムでオフセットを除去できるかを確認してみてください。

5.PI制御の特徴と使い方
 これまでに得られたPI制御の特徴と使い方に関する知見をまとめますと、次のようになります。
 (1) PI制御は、P制御とI制御の両者の長所を活かす形で組み合わせたものです。P制御は、制御系に偏差が発生したとき、制御量が定常状態に達するまでに時間的にどのような経路を辿って応答するかという「動特性」の調整を分担し、I制御は応答が定常状態に達してからの状態がどうなるかの「静特性」の調整を分担します。
 (2) PI制御は、負荷が変化しても目標値が変化しても、制御応答特性の「動特性」を良好に制御できるとともに、「静特性」ではオフセットを除去して制御量を目標値にピッタリ一致させることができるという制御の基本機能を満たしていることから、最も基本的な制御技術と位置付けることができます。
 (3) PI制御は、制御する対象(制御対象)の特性がむだ時間を含まないか、むだ時間があっても小さい場合に適しています。具体的には、流量、圧力、液面などの制御に適しています。
 一般的なプロセス制御では、使用されているPID制御全体の中で、PI制御が60~90%を占め、多用されています。■

 
 
 

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