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2004年3月号

PID制御のお話

第2回  PID制御の過去、現在そして将来

ワイド制御技術研究所 所長 広 井 和 男 

 今回は、制御の歴史の中で、PID制御がいつごろ、どのようにして生まれ、そして発展し、現在どのような位置付けにあるか、そして将来どのようになりそうかについて考えてみたいと思います。

1.制御技術/制御理論の起源
 制御は、英語のcontrolの訳です。controlの語源はラテン語のcontrarotulareで、contraは「対して」、rotulareは「巻物」という意味です。これらを組み合わせると、controlは、「巻物に記載された権威(基準)に照らして、差異があれば修正する」ということからきています。JIS用語では、制御とは、「ある目的に適合するように、対象になっているものに所要の操作を加えること」と定義されています。「PID」はどのような方法で制御するかを表わし、PはProportional:比例、IはIntegral:積分、DはDerivative:微分の略です。
 このPID制御については、その生い立ちから、最先端まで詳しく説明して行きますが、ここで、PID制御基本式はどのようなものであるかについて、簡単にふれておき 制御といえば、現代科学技術の高度化の産物であり、歴史は浅いと思われがちですが、実際には長い歴史をもっています。より高いレベルの欲求を求め続けるという人間の本能に基づいて、より便利なもの、より精度の高いものを実現しようと努力を始めた紀元前から制御の歴史は始まっています。現在の水洗トイレの浮き子(フロート)を使った水位調節機構に類似したフィードバック制御機構は、紀元前250年頃ギリシャ人のクテシビオスが発明した水時計の流量制御装置として使用されていたといわれています。
 表1にPID制御関連の小史を示します。現在の制御技術の起源は、時代は約2000年下った1778年にワット(James Watt)の蒸気機関に初めて適用されたガバナ(flyball governor)による自動回転数制御であるといわれています。その原理を図1に示します。負荷が増加して蒸気機関(制御対象)の回転数(制御量)が低下しますと、遠心力が小さくなるため遠心振り子が降下し、すべりリングを引き下げます。これにより蒸気供給弁(操作端)の開度が大きくなり、蒸気供給量が増加して、回転数が上昇します。この制御機構は回転数が設定値からずれますと、その偏差に比例して修正動作をするフィードバック制御系を構成しています。この制御は比例(P)動作のみのため、比例ゲインを限界まで大きくしても、原理的にオフセット(定常偏差:制御を行っても定常的に残る偏差)をゼロにできないという限界がありました。しかし、蒸気を回転動力に変換して利用する重要な役割を果たし、産業革命のきっかけとなったもので、制御技術の起源といわれています。このガバナの制御動作の力学的研究を行い、安定制御の条件を解明した1868年のマクスウェル(Maxwell)による“On Governor”という表題の論文が制御理論の起源であると位置付けられています。

2.PID制御の誕生と発展
 20世紀に入った1922年にマイノースキー(Minorsky)が現在でも制御の圧倒的シェアを維持しているPID制御を発想しています。ラプラス変換など制御特性を解析する数学的手段のない時代に、ワット蒸気機関の回転数制御のP動作に、オフセットを除去する機能をもつI(積分)動作を付加し、さらに制御量の変化を予測して先行抑制する機能をもつD(微分)動作を付加した完全なPID制御を、どのようにして発想したのかは明らかではありません。多分、これは兵器の性能や産業高度化の強いニーズの圧力を受けて、工夫に工夫を重ねている過程でひらめいたに違いないと思います。
 1936年米国テイラー(Taylor)社のカレンダー(Callender)らによって空気式PID調節器の原型が作り出されました。しかし、PIDパラメータ値をどのように決定し、調整すればよいかが不明であったため、ほとんど使用されませんでした。テイラー社の営業技術部にいて、売れないで困っていたジーグラー(Ziegler)が技術開発部にいたニコルス(Nichols)に働きかけて、PIDパラメータの最適調整法の開発に取り組みました。空気式PID調節器を改造して、むだ時間と時定数をもった制御対象モデルを作り、PID調節器と組み合わせて実験に実験を重ねました。ついに1942年、両者によって画期的で実用的なPIDパラメータの調整則(限界感度法および過渡応答法)が提唱されました。これらの調整則は実験的に求められたもので、理論的根拠は明確ではありませんが、PIDパラメータの求め方が容易で、かつ有効であったため、PID制御の普及に大きく貢献することになりました。

3.PID制御の現状、位置付けと特徴
 新しい制御技術/制御理論が誕生してくる中で、さらにディジタル制御時代の現在でも、PID制御がプロセス制御全体の90%以上の圧倒的シェアを維持して、これを越える汎用制御技術の誕生を許さないのは「シンプルな構成で、ほとんどの制御対象に対して有効であり、分かりやすい制御技術」であることに起因していると考えています。
 PID制御の位置付けとその特徴などをまとめますと、次のようになります。
 (1)プロセス制御全体の90%以上の圧倒的シェアをもつシンプルで、有効、かつ分かりやすい制御方式です。
 (2)比例(P)、積分(I)、微分(D)という3種の動作がプロセス工業などに現れる大部分の制御対象に対して、十分な調整能力をもっており、その物理的意味が明確で、調整が容易です。  (3)最近、解明が進んで、PID制御で理論付けられる範囲が広がっています。
 (4)シンプルな構成で、長い歴史をもっていますが、まだ未解明な部分や高度化の余地が残っています。

4.PID制御の将来
 今後も、PID制御の位置付け、重要度やシェアは上昇することはあっても、低下することはあり得ないと考えています。たとえば、100人の組織において、1人や2人ががんばっても組織を活性化できませんが、90人以上という大多数の人々ががんばれば、組織全体の動きが活性化され、出力が増大します。プロセス運転システムを活性化するには、90%以上の大きなシェアを占めているPID制御の問題点や課題を解決し、正しく適用するとともに、さらに高度化することが1つの効果的なアプローチであると考えます。
 そのためには今後、PID制御の本質部分の高度化、ディジタル化に伴う問題、調整方法、セルフチューニングおよびPID制御の限界を越える方法の追求などに取り組む必要があります。筆者は、とりわけ次の2点が重要だと考えています。
 (1)「PID制御+α」による高度化
 さらに制御性を高度化するためには、PID制御の内部または外部に+αの加工・変形・機能付加をして、PID制御の限界をブレークスルーしていくことが必要と考えます。
 (2)個別最適化
 「すべてに適用できるものは、すべてに最適ではない」という名言があります。PID制御についても同じことが言えると思います。つまり、「PID制御はすべてに適用できるが、すべてに最適になってはいない」というのが実態と考えています。これを打破するには、個別最適化できるように、PID制御の構造をフレキシブルにすることが必要不可欠と考えます。
 これらの課題の解決やPID制御の限界打破に向けて、継続的挑戦を怠ってはならないと思います。■

 
 
 
 

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