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2004年2月号

PID制御のお話

第1回  PID制御とは? - 人間の判断との類似性 -

ワイド制御技術研究所 所長 広 井 和 男 

は じ め に
 「PID制御のお話」を連載させていただくことになりました。PID制御は、制御の世界で圧倒的なシェアをもっており、製鉄所、化学工場などの装置工業や、上下水道、ゴミなどの処理設備の温度、圧力、流量、レベル、成分などの制御、いわゆるプロセス制御では90%以上を占めて基盤制御技術となっています。
 連載の内容は、基礎から2自由度PID制御まで11回を予定しています。やさしい説明を目指しますので、ご愛読をお願いします。

1.PID制御の定義
 制御は、英語のcontrolの訳です。controlの語源はラテン語のcontrarotulareで、contraは「対して」、rotulareは「巻物」という意味です。これらを組み合わせると、controlは、「巻物に記載された権威(基準)に照らして、差異があれば修正する」ということからきています。JIS用語では、制御とは、「ある目的に適合するように、対象になっているものに所要の操作を加えること」と定義されています。「PID」はどのような方法で制御するかを表わし、PはProportional:比例、IはIntegral:積分、DはDerivative:微分の略です。
 このPID制御については、その生い立ちから、最先端まで詳しく説明して行きますが、ここで、PID制御基本式はどのようなものであるかについて、簡単にふれておきます。
 PID制御基本式は下記の(1)あるいは(2)式のように表わされ、現在の偏差eに比例した修正量を出す比例動作(Proportional Action:P動作)と、過去の偏差の累積値に比例した修正量を出す積分動作(Integral Action:I動作)と、偏差eが増加しつつあるか減少しつつあるか、その傾向の大きさに比例した修正量を出す微分動作(Derivative Action:D動作)との3つを加算合成したものです。
2.人間の判断との類似性
 ここで、PID制御と、人間が制御したり問題の解決策を判断したりするときの考え方との類似性を探ってみたいと思います。  PID制御基本式の各項の役割を分析してまとめますと、表1に示すようになります。
 1)判断方法
 表1に示すように、PID制御の積分動作は過去の偏差の累積値、つまり「過去」のデータの重視度を示し、比例動作は現在の偏差の大きさ、つまり「現在」のデータの重視度を示し、微分動作は偏差の将来の予測値、つまり「将来」のデータの重視度を示しています。制御対象の特性に対応して、人がPIDパラメータ値(各項の強さの設定値)を調整するのがマニュアルチューニング(手動調整)で、それを自動的に行うのがオートチューニング(自動調整)です。人間が物事を考えて判断するときには、必ず「過去の状態はどうであったか」、「現在の状態はどうなっているか」、「将来はどうなりそうか」という、「過去」、「現在」および「将来」の3種の情報を用いて、それぞれの情報にどのようなウエートをおくかを考えて結論を出します。これとまったく同じ機能をPID制御が実行していることになります。
 人間の場合にも、パラメータ設定値のバランスの悪い人がいます。たとえば、過去の後始末をしっかりする、つまり積分動作は良く効いているが将来の予測がまったくできない、つまり微分動作が効かない人もいれば、反対に微分動作が効き過ぎて予測ばかりして後始末の不得意な人もいます。
 一般的に、良い結論を出すためには、個々の問題の特性に対応して「過去」、「現在」および「将来」の情報の重視度を最適に調整しなければならないことを示しています。
 2)変化への対応
 PID制御において、目標値と実際値との間にズレが発生したとき、つまり偏差eが発生したとき、比例動作は偏差eの変化に対して、直ちに応動するという「即応追従」動作をし、積分動作は偏差eがゼロになるまで、つまり目標値と実際値がピッタリ一致するまで制御出力を出し続けるという「継続追従」動作をし、さらに微分動作は偏差eの変化率の大きさから将来の動きを予測し、これに対応する制御出力を出す「予見追従」動作をしているとみることができます。つまり、PID制御は、変化に対して「即応追従」、「継続追従」および「予見追従」という動作を組合せて制御を実行していることになります。
 この「即応」、「継続」および「予見」という3つの側面から目標達成に取り組むことは、制御のみならず目標管理、製品のVA(Value Analysis)/CD(Cost Down)、技術力強化などあらゆる取り組みに共通する基本的手法です。PID制御は目標達成に向けての基本行動パラダイムを私達に明確に示しているといえます。

3.PID制御は暖かいもの
 以上説明しましたように、PID制御は、シンプルな構成の中に人間の判断や行動の基本パラダイムと同じ機能を備えており、これを忠実に実行していることになります。PID制御基本式は、表面的にはまったく無味乾燥で冷たい表情をしていますが、内面では人間の判断と同じことを一所懸命に計算して制御していると理解すると、ほのぼのとした暖かさを感じます。今後、ぜひ興味をもってPID制御と接していただきたいと願っています。また人間のように、時々休んだり勝手に中断したりするというような、気まぐれな行動をすることはありません。
 このように、PID制御は分かりやすくシンプルな構成でありながら、プロセス制御の大部分の対象に対してすぐれた制御能力をもっています。これが、PID制御を超える汎用制御方式の誕生を許さない要因ではないでしょうか?
 これらの考え方をベースとして、PID制御にどのような機能を付加すればPID制御を超えられるか、を考えれば、新しい制御方式を生み出すことが可能かもしれません。読者の皆さんの積極果敢な挑戦を期待しています。 ■

 

 
 
 
 

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