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2000年11月号

温度のお話

第8回 赤外線誘導加熱(2)

(有)ケイ企画 代表取締役/エム・システム技研 顧問 西尾 壽彦

2.熱風加熱方式と比較した赤外線誘導加熱の特長
 金属は赤外線をほとんど反射してしまうため、赤外線誘導加熱の対象としては不適当です。
 表1に挙げた物質は赤外線の透過率が高く、赤外線熱源照射における窓の材料として利用できるものです。
 図1は、各種高分子の塗膜・塗料に使われる代表的な溶剤の波長吸収特性を示したものです。この特性に基づいて最適波長を選択し、有効な乾燥を行います。
 赤外線誘導加熱効果の大きい材料は、動物、植物、またプラスチックなどの有機高分子材料や炭素、シリコン、金属酸化物やガラス・セラミックスなどであり、とくに赤外線が内部まで浸透する薄肉材料の熱処理に適しています。
 2-1 熱伝導では得られない質的な効果
 イ)分子振動を生ずる誘導加熱であるため、高分子材料の化学反応を促進し、熱硬化反応の品質向上に効果が大きく、これを利用した最近の自動車の塗装では、剥離し難く、硬度も高く、非常に光沢のよい仕上がりが得られています。
 ロ)シリコンウエハー、液晶、DVDおよびPDPの背面基板などは、加工の工程で何回も熱処理が行われ、材料の内部には熱歪みが内在しています。これを取り除くために最終工程でアニールを行います。その際、赤外線誘導加熱を用いれば、電磁誘導による分子振動が生じるため、伝熱式より低い温度で分子配列が均一化され、大変優れたアニール効果が得られます。
 ハ)高分子膜の乾燥技術はハイテクのキーテクノロジーであるとまでいわれており、赤外線による乾燥が主流となってきました。この場合、溶剤は内部から蒸発し、完全に乾燥(絶乾)します。しかも仕上がり状態の品質が高く、短時間処理が可能です。
 2-2 高速加熱
 熱風による熱伝導は熱風温度T1と加熱対象温度T2の温度差(T1-T2)の対数に依存し(図2参照)、また吹き付ける熱風速の5/2乗に比例します。
 一方赤外線照射では、赤外線熱源の表面温度をTi、被加熱体の温度をToとすれば、(Ti 4-To 4)の関数で、ほぼ直線的に急昇温できるのが特長です。すなわち、熱風に比べて10倍以上の高速昇温であり、真空中の加熱として理想的です。加熱対象雰囲気を撹拌すると冷却風として作用するため、一般に、無風雰囲気で加熱が行われています。
 2-3 均一加熱に有利
 熱風炉の場合、内部温度が完全に均一でも、高分子材料(絶縁材料)に対しては風速分布に起因する大きなムラが熱処理に生じます。赤外線誘導加熱の場合は、無風で、被加熱体の形状に左右された熱容量差に起因する時間遅れが少なく、均一化時間が短縮されます。
 2-4 省エネルギー(小型化)
 熱風による高温炉(槽)の消費エネルギーは、炉体内部金属部分と内部空気全体を高温で維持するするために漏洩カロリーを補うエネルギーが大半であり、被加熱材料が消費するエネルギーはわずかなものです。
 赤外線加熱では、雰囲気温度の影響が少なく、高速に加熱できるため、有機高分子材料の乾燥、硬化、アニールなどを目的とする200℃以下の熱処理炉としては、高度の断熱構造をもつ炉体は不要です。
 被加熱体の赤外線吸収波長帯および照射エネルギーと照射時間の最適値を把握して、照射距離や被加熱体への集光法を工夫することによって、熱風炉と比較して、搬送型炉長を少なくとも1/5以下に、またエネルギー消費量を1/10以下にすることは、それほど難しくありません。ここに挙げた省エネルギーは赤外線誘導加熱の最大の特長であり、比較的容易に実現できます。
 2-5 塵埃・酸化防止に有利
 循環熱風が不要で真空中でも加熱できる手段であるため、赤外線誘導加熱は、クリーンルームや窒素シールによる塵埃・酸化防止には大変好都合な加熱手段です。高度な方法を利用してはいますが、シリコンウエハーの熱アニールの場合、石英ケース内の真空中に置かれたシリコンウエハーにケース外部から赤外線を照射して、1分間で1000℃まで昇温させています。
 2-6 クラックや反りが生じない
 赤外線誘導加熱の場合、高分子基板(ポリイミドなど)やガラス基板を高温まで短時間で高速加熱しても、クラックや反りが発生しにくいという特長があります。その理由は、熱風加熱に比べて表面からの伝熱による厚み方向の温度差による熱歪みが発生しにくく、内部まで同時に自己発熱するためです。
 少々専門的な話になりますが、ガラスの粘度と構造変化や熱収縮現象、熱変形、前処理などの改善研究においても、伝熱型とは差があり、赤外線誘導型が有効と考えられています。

3.赤外線誘導加熱装置の実用化
 熱処理炉は一般に次の3種に分類されます。
 イ)主にタングステン、ニクロム等の電気抵抗発熱ヒータを使用した空気循環式熱風炉。
 ロ)セラミック系の赤外線放射率が高いヒータを使用して、炉内全体に赤外線を放射飛散させ、炉壁を加熱して熱風を作り出す方式。
 ハ)赤外線誘導加熱方式
 イ)、ロ)はいずれも熱風による伝熱方式であり、ロ)の加熱効率はイ)より優れています。しかし、赤外線誘導加熱がもつ効果は期待できません。
 本稿では以下、ハ)について装置設計上の注意事項を紹介します。
 3-1 加熱源ヒータ
 放射波長領域が1~15μm以上で放射率が90%以上のヒータが市販されていますが、中には雑悪なものもあるので、不明なときは赤外線協会などに評価を依頼することをお奨めします。加熱源ヒータは高品質で生産性の高い熱処理装置実現の成否を支配している部材と言えます。
 3-2 ヒータ表面温度の制御
 本稿第1回で紹介したように、ヒータ温度(T)と放射ピーク波長(λ)の関係はλT≒0.29〔cm・deg〕です。この関係に基づき、ヒータ表面にレスポンスの速い熱電対素線を接触させて、必要な波長に相当する温度になるようPID制御する方式が通常採用されています。
 3-3 赤外線の集光
 発光効率が高いパイプ型ヒータの上部に放物鏡を配置し、焦点位置を中心に上下させ、被加熱体への照射エネルギー密度を高めたり調節することが行われています。
 3-4 生産装置製作のためのテスト装置
 赤外線ヒータだけは、生産設備に使用する部材と同質のものを使用し、小型簡易なテスト装置を作成して、あらかじめ生産設備設計のためのデータ収集を行うことをお奨めします。
 収集すべきデータの項目は次のとおりです。
 イ)被加熱体の赤外線吸収波長領域をヒータ表面温度で把握確認する。
 ロ)ヒータと被加熱体との間隔の最適値を把握する。
 ハ)集光する場合は、ヒータと反射鏡の間隔の最適値を把握する。
 ニ)最適照射時間を把握する。
 ホ)期待する生産数量に対応して、必要な炉長を把握する。
 以上イ)~ホ)の組合せの中で、熱処理品質の評価結果から、最適な生産条件を定めることが肝要です。またこのテスト装置は、製品の材料や形状が変更されるときに、生産装置の上記設定条件を変更するためのデータ収集にも流用できます。 ■

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