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2000年10月号

温度のお話

第7回 赤外線誘導加熱(1)

(有)ケイ企画 代表取締役/エム・システム技研 顧問 西尾 壽彦

はじめに
 計測量を把握すると、人間は次の行動として制御系の確立を図ります。「計測の目的は制御である」と言えます。
 世は正にセンサ時代ですが、制御におけるアクチュエータの重要性を見逃してはなりません。アクチュエータの発想転換も計測制御の転換を促すものです。
 各種の熱工業において活用されるようになってきた有力なアクチュエータの事例として、赤外線誘導加熱についてご紹介します。
 人類は太古の昔より生活の知恵として、鍋料理、石焼芋、魚介類の干物などの加工に、また岩風呂にと、赤外線を種々利用してきました。1800年頃に、太陽光線をプリズムにより分散させ、どの色が最も温度の高い光線であるか調べた結果、赤色より外れ、可視光より波長の長い部分であることから、この熱線を赤外線と名付けました(図1)。
 その後19世紀の後半になって、赤外線の性質は徐々に明らかになり、Max Planckらによって、自然界のエネルギーは連続的ではなく、飛び飛びの値をとるというエネルギー量子の概念が量子力学的に確立されました。
 また、赤外線領域中の特定波長のエネルギーを有機高分子が吸収することから、今日の化学分子構造の決定の手段として、赤外線は欠くことができない存在になりました。
 そのほか、放射温度計、材料分析、リモートセンシング、および通信手段などに、赤外線が広く利用されていることは周知のとおりです。
 一方、赤外線の加熱源としての工業への利用は、1938年米国Ford社が自動車の塗装乾燥に用いたのが契機となり、実用化に入りました。これが我が国に導入されたのは戦後になってからで、歴史的には意外と新しいものです。
 加熱源としてパワーが得られる赤外線の波長帯域は1~10μmで、都合のよいことに食品、木材、ガラスや液晶、PDP、DVDおよび各種の電子デバイス用有機高分子材料の赤外線吸収波長帯と合致しています。
 これらの材料は、金属と異なり熱伝導率が小さいため、熱風による熱伝導加熱は低効率です。これに対し、後述するように赤外線誘導加熱は最適の加熱方法であり、熱伝導方式では得られない数々の利点があります。そして、精密な乾燥、硬化、アニールなどへの利用とノウハウの獲得は、正にこれから始まろうとしています。

1.赤外線の性質
 加熱源エネルギーとして活用できる赤外線の波長範囲は図2に示すように1~10μmであり、直進性、反射、屈折、および速度については、光とマイクロ波に対して中間的な性質を持っています。
 1-1 赤外線の発光
 一般に原子が通常の状態にあるときは、その軌道上の各電子は全体としてのエネルギー含量が最小となるような配列をとっており、このような電子配列の状態を正規状態または基底状態にあるといいます。
 この基底状態にある物質を高温加熱により励起させると、その原子の最外側にあたる原子価電子が移動・遷移します。これが元の低エネルギー状態に戻るとき、エネルギー放出として発光現象を生じ、その遷移幅に応じて紫外線、可視光、赤外線などが放射されます。
 1-2 赤外線による分子誘導加熱
 いくつかの原子から成る分子を考えると、分子は原子間を結ぶ方向の伸縮運動と、結合方向から外れる変角運動を行っています。そこで、その分子固有の振動数と同じ振動数の電磁波エネルギーをその分子に与えると、共鳴共振によって振幅が増大し、摩擦熱による加熱を生じます。ただし、H2、N2、O2などでは、詳しい説明は省略しますが、伸縮運動は対称的であり、赤外線を吸収しません(図3)。
 図4は各種物質の波長吸収特性を示したものですが、最近のプラスチックなどの高分子材料は、ほとんどが3~4μmおよび6μm以上に強い吸収帯を持っています。したがって、図5に示すように、同一波長、同一エネルギー照射であっても、赤外線加熱によって到達する温度は、物質により異なります。
 1-3 赤外線の伝熱
 伝導、対流による加熱とは異なり、赤外線加熱は放射加熱であるため熱媒体が不要で、熱源から直接電磁波によって加熱対象を集中的に加熱できます。このため、エネルギー損失が極度に少なく、放射、吸収、発熱が極めて速いのが特長です。また、電子線、マイクロ波、電磁誘導加熱と比べても、極めて経済性が高く、今後も大きく発展するものと期待されています。 ■


◆ 参考文献 ◆
(株)田村製作所 発行資料
エレクトロニクス実装技術セミコン特集'97/12 西尾著
(図4、5:(株)田村製作所 技術開発グループ発行資料)
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