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2000年9月号

温度のお話

第6回 計測を考える(2)

(有)ケイ企画 代表取締役/エム・システム技研 顧問 西尾 壽彦

6.センサについて
 横断的センサ技術論を解説するつもりはありませんが、科学や工学のいろいろな分野で、手段として必要に応じて発達してきた計測技術、および計測技術の進歩とともに、その必要とする目標がより明確になり、ともに発展してきたセンサ技術について以下考察することにします。
 現在、単一のセンサについては、かなり高精度に測定する技術が確立しています。しかし、複雑なセンサデバイスやセンサシステムなど2次元、3次元的な情報を把握・収集する領域では、これからの注力すべき分野であると思われます。

6-1 センサ技術の進歩の方向
 イ)新材料の出現によるもの
 各種の半導体、有機材料、無機化合物、および微生物などを利用して考案されたものです。
 ロ)近年の微細加工によるもの
 半導体微細加工技術に含まれる拡散やエッチング技術を利用することにより、機械的加工技術を用いないで、高精度で均一な性能とローコスト・大量生産を実現したものです。
 ハ)新しい計測技術によるもの
 光波、放射線、電磁波、静電容量などを利用した非接触計測は、各種の計測技術の進歩とともに実現されてきたものです。また、マイクロプロセッサとメモリ機能をセンサに結合することにより、測定の最適化を図るための自動校正、自己診断などの知能的機能を持たせたものは、スマートセンサなどと呼ばれています。

6-2 センサと信号処理技術
 計測・制御対象の様々な情報を得るために、センサ素子の重要性は言うまでもありません。しかしながら、センサの信号を100%引出したり、不必要な信号や外部誘導障害、ノイズなどを除去し、さらにセンサ能力の不十分な点や弱点を信号処理によって補強するための重要な技術として、極めて高度な信号処理技術が確立されてきています。
 センサを生かすも殺すも信号処理技術次第であるといわれ、切っても切り離すことができず、ともに進歩することによって好ましい成果が獲得できました。本当に必要なセンサ信号は、様々なノイズの中に埋もれているといっても過言ではありません。
 医療現場の有力な診断装置であるX線CT(Computed Tomography)などは、まさにコンピュータと信号処理技術とセンサの結合によって実現されたものです。
 信号処理技術の詳細は省略しますが、基本的には振幅(エネルギー)、時間、周波数の3軸の処理過程で整理されます。周期信号と規準信号とを加えた同期検波によるものや、同期加算の原理によるものなどが代表的です。センサ信号を適切に信号処理するためのインタフェースをシグナルコンディショナといいます。単純な温度変換器で、しかも使用されている電子部品はほとんど同じ商品であっても似て非なるものがあるのは、このシグナルコンディショニング(信号処理)技術の差によるものです。

6-3 人間の五感
 視覚、聴覚、臭覚、味覚、体性感覚(表面・深部感覚)の五感のセンサとその情報処理、演算、制御に関しては、感覚受容細胞、信号処理方法、脳(コンピュータ)を含む総合システムなどについて、かなり細部にわたって古くから研究解明されています。
 たとえば指や手のひらの皮膚表面には、温度や圧力を感じる受容器が散在しており、接触感知により非常に微細で正確な優れた、いわゆるメカトロニクス信号として体全体に発信しています。
 深部感覚は、筋、関節、骨膜などの深部組織からおき、人間の機械的な制御動作に欠くことができない感覚です。
 鏡面仕上げされた金属の平滑度や精密機械のシリンダのはめ合い公差などの5μm以下の差を、熟練者は指先だけで容易に判別します。
 マッサージ師は患者の背中の左右に手のひらを当てて左右の温度差を0.01℃までバランス判定して病状診断することができます。
 これまでのメカトロニクスの進歩の中には、人間や動植物の生体研究からヒントを得たセンシングシステムと知能システムが種々利用されています。
 視覚、聴覚、体性感覚について詳細な知識を獲得することによって、計測・制御に携わる方々にはいろいろなヒントを示唆されると思います。とくに温度・圧力・流量・振動などについての定量的な予測ができない、計測・制御システムへの対応に当たっては大変参考になります。
 最近話題の迎撃ミサイルは、人工衛星の信号認識、次にレーダ補足、近距離では太陽光など種々のノイズの中からミサイル噴射ガスの赤外線波長を選択把握して姿勢制御を行いミサイルを追尾撃破するものです。
 これらのコンピュータによる予測制御システムの技術は、計り知れないほどの難解なものです。

6-4 センサの好ましい条件
 センサのうち、我々が主対象とする工業用センサについて考えたとき、図1に示すように要求される性能はそれぞれ重要な項目です。しかし、センサだけですべてを満足できる優等生は数少ないはずです。メモリ・演算機能と結合して実現される性能と考えるべきです。
 センサを必要とする分野の拡大と多様化に伴って、優れたセンサの考案が期待されています。しかし、それらのセンサは、従来のようにオールオーバーな性能・機能を備えている必要などありません。たとえば生体の計測のように、特定の目的に最適な性能だけを備えていれば、二次的性能はシステム的に補強できるものです。
 0~1000℃の測定に適している汎用センサよりは、目標に合致していれば、0~200℃専用のセンサの方が最適であり、システムも簡素化できる場合が多いものです。
 このように、コンピュータとセンサの結合により、従来のセンサの好ましい条件は大きく変化してきています。それでも、センシングは計測システムの中で最も有効かつ重要であることには変わりはないと考えられます。いずれにせよ、従前のセンサに対する条件にとらわれず、コンピュータ支援を前提として、目的合致型の優れたセンサを考案あるいは採用し、実績だけに頼らずに果敢に活用することが、センサの発展に寄与することと考えています。
 ご参考までに主要なセンサを表1に示します。   ■

◆ 参考文献 ◆
1)メカトロシステム辞典、産業調査会
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