トップページ >温度のお話 第1回

2000年4月号

温度のお話
第1回 神々は温度で自然界を操っている

エム・システム技研顧問/(有)ケイ企画 代表取締役 西尾 壽彦
 
はじめに
 近年、エレクトロニクスのはなばなしい進歩は、情報、通信分野を巨大産業へと押し上げ、止まるところを知りません。
 主役のマイクロエレクトロニクスは専用システムLSIの開発競争において、巨大需要と低コストの好環境に乗り、これまで信じ難いほどの性能・機能を有するLSI、VLSIだけでなく、特殊な専用システムLSIを数多く出現させてきています。最適なシステムLSIを開発した企業がその業界の“ひとり勝ち”を狙ってきているともいわれています。
 一方、市場規模の小さな計測の世界でもかなり優れた汎用のLSI、システムLSIが安価に入手できるようになってきました。
 パソコン計測と相まって、夢の計測器が出現する環境が整いつつあると思われます。
 これまでは温度計測だけ考えても、化学分析用、医用、半導体製造用、研究開発用、フィールド用…etc. それぞれの計測器はすべて異なり、業界が異なると使用している温度計やそのメーカー名が異なり、あまりにも多種多様です。
 本当は高価な精密計器の存在価値は、すでに薄れてしまっているかもしれません。
 マンマシンの操作性、見やすい画面、CPU、メモリ、プログラム機能をパソコンに担当させ、センサ、インタフェースおよび計測ノウハウを充分把握していれば、上述の業界あるいは分野別 すべてに横断的な計測器となってしまうはずです。センサだけは千差万別です。
 これからの計測器メーカーの基幹技術は
 イ)計測技術力(後述)
 ロ)LSI評価力
 ハ)品質管理力
の3点に絞られるといわれています。
 以上のような周知の時代背景を頭の隅に入れて、“温度のお話”を進めて行きます。
 本誌読者諸兄には温度計測の専門技術者が多数おいでになると思われますが、今回筆者が連載させていただく説明のターゲットは、温度以外の専門技術者です。
 封じ込こむことができず、何とも厄介な計測手法は“二の次”として、計測の目的や効果 を中心におしゃべり言葉で関数式は使用せず(宮道社長に禁止されている)種々の事例を多数記述するつもりです。
 読者に温度の話題をふりまくことにより、少しでも温度全般に興味をいただき、その専門技術に多少とも役立つことができれば幸いです。
 さらに欲を言わせてもらうと、これまでの温度計測とは無縁であると思われていた分野の研究で極限化・改善研究が進むにつれて、温度、熱量 の挙動解析が他の物理量(濃度、分子量、純度)計測の有効な手段となっています。
 このような計測技術事例について、読者と質疑討論の機会を得ることができれば幸甚の至りであります。

1.神々は温度で自然界を操っている
 1.三大物理量
  工業計測における三大計測量は温度、圧力、流量ですが、宇宙の三大物理量 は長さ、質量、温度です。いまだに膨張続けている宇宙のビッグバンからの自然循環、地球という星の活き活きとした自然の営み、我々動物、植物の自然からの恵み、物理、化学、電子工学、バイオ、量 子力学、原子物理等々すべて良く考えてみれば、温度というディメンションが主役で能動的です。長さや質量 はむしろ受動的であり、結果としてのディメンションです。
 自然の摂理、全体を包括する関数式はすべて温度の関数であることは周知です。
 やはり自然科学を学び研究することは、温度を学ぶことを欠かすわけにはいきません。
 研究・開発 ・工業化における未知の問題について、技術者は常に計測 工夫と結果 から推論確立し、制御手法も解決して、偉大な成果を獲得しています。
 マイクロエレクトロニクスに支援された計測機器はこれまで計測不能と思われた物理量 の計測を可能として、将来性が楽しみです。

 2.太陽や遠くの星の温度
 太陽の黒点の温度が6000℃とか、シリウスが2万度であるとかいわれていますが、これは比較的容易に計測でき、正確なものです。
 プランクの放射公式のウィンの変位則について説明します。
 この宇宙で温度のない物質はなく、温度物体は必ずある波長を持つ電磁波を放射しています。その波長と温度の関係は
 λT=0.2897〔cm・deg〕です。
 λ≒ 2900/T〔K〕 マイクロメートル(μm)
 T:絶対温度 λ=波長
 甘栗や焼きいもの黒い石、土鍋などが100℃であると放射波長は
 λ=2900/(273+100)= 7.77μm
で遠赤外線領域です。
 赤外線肌着の遠赤外線波長は
 λ=2900/(273+37)= 9.35μm
 すなわち宇宙空間の星も地上の物質も放射波長を正確に計測すれば表面温度を正確に知ることができます。
 図1に電磁波の波長による分類、図2に黒体の単色放射発散度と波長の関係を示します。
 赤外線の加熱効果については詳しくは後述します。

 3.北海の漁場
 先日も日刊紙のコラムに紹介されていたのでご存知の読者も多いと思いますが、冬になると北海の海水が徐々に凍りつき、暖かかった海水は冷却され比重が重くなり深海との温度差が拡大し、海底からなる大きな流れの対流現象が生じます。
 長時間豊富な栄養分を含んでいた深海水は上昇して、海面の表面近くの太陽光に当たり、その植物性プラントが光合成を行い大量 増殖します。
 当然動物性プランクトンが大発生し、小、中、大の魚類が次々と順を追って増殖生育されてゆきます。
 温度という気候変化がかもし出す、なんともダイナミックな生態系循環ではありませんか。    ■

  次回へ

*. 本ウェブサイト上に掲載されている情報は、掲載した時点での情報です。記載内容はお断りなしに変更することがありますのでご了承ください。

*. 本ウェブサイト上の表示価格には消費税は含まれておりません。ご注文の際には消費税を別途頂戴いたします。

MG 株式会社エムジー
(旧社名:株式会社エム・システム技研)

Copyright © 1992 MG Co., Ltd. All rights reserved.