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エムエスツデー 2005年10月号

計装 今昔ものがたり

第10回 制御理論てんやわんや

早稲田大学 理工学総合研究センター 客員研究員 深町一彦

自動制御ことはじめ

 フィードバック制御の始まりは、ジェームスワットの蒸気機関の調速器であると、大概の本に書いてあります。1776年のことだそうです。マクスウェルが英国科学院に、「ガバナについて」という論文を発表したのは約90年後、1868年でした。このふたつは自動制御の分野では良く知られた出来事です。ある日突然ワットの調速器が発明されたわけではなく、その前から水車や風車など動力を産業に使おうとしたときから制御への努力は始まっていたものと考えてよさそうです。その中で、ワットの業績は制御史上の大きなモニュメントでした。

 調速器は営々と改良が続けられ、資料に見るワットの直動式の調速器をはるかに凌駕する製品が世に現れていたようです。オフセットを消去する積分性の機構や、力を増幅するパイロット機構などが文献には見られます。安定で効果的な動作を求めて試行錯誤が重ねられましたが、その基本的な解析は後年に待たねばならなかったようです。マクスウェルに先立ち、1840年頃から動的安定の理論に関する論文が見られます。

図1 ワット調速器の原理図と調速器(レプリカ)の外観

制御理論の草分け

 制御理論がわが国に入ってきたのは戦後のことです。いろいろな大学で先鋭的な研究者が集まって自動制御の研究が始まりました。私の手元に1953年頃からの「自動制御研究会資料」というものがあります(図2 左)。ガリ版刷りで毎月50〜60ページほどのもので、後年わが国の制御界を主導した人たちの手で、海外文献の翻訳紹介や、空気式制御装置の動特性の解析など幅広いテーマについて、月例の集まりで報告された記録が残っています。発行日と資料の番号から推して、1948〜9年頃から発足したもののようです。ちなみに計測自動制御学会がスタートしたのが1961年と記憶しています。

 フィードバックという言葉が新鮮で、世の中すべてがフィードバック・システムで解釈できると大騒ぎでした。「現代用語の基礎知識」などにも取り上げられていました。ノーバート・ウィーナーの「サイバネティックス」は1948年に出版され、邦訳は1957年出版(岩波書店)でした。

 斯界の先達は高橋 安人 氏が有名でした。伊沢 計介 著「自動制御入門」(昭和29年 オーム文庫)は、お値段も手ごろで、ベストセラーでした(図2右)。制御関係に関わるもので持っていない人が見当たらないくらいでした。たとえ充分に読みこなせなくとも、自動制御技術者として世渡りするための通行手形でありました。

 戦時中には、レーダーと高射砲で敵機を追尾する兵器としての研究が進められていました。幸い敗戦国日本では、このような危険な研究は行われず、自動制御の実践はプロセス制御や工作機械などが主でした。プロセス制御屋としては、制御理論の書に出てくるサーボ機構/追尾装置というのが想像できなくて、比率制御かカスケード制御のようなものだろうと平和な誤解で済ませていたこともあります。自動制御は産業革命で誕生し、第2次大戦で成人したともいわれますが、とするとプロセス制御は成人した後の就職先だったのでしょうか。

図2 「自動制御研究会資料」(左)と「自動制御入門」(右)

現代制御理論

 1960年頃、現代制御理論がやってきたときは大騒ぎでした。それまで金科玉条だった自動制御理論は「古典制御理論」と、源氏物語かシェークスピアの悲劇のような名前がついてしまったのも騒ぎの一因だったのかもしれません。PID制御は古典に属するから、これからはもっと新しい制御が使われるようになるなどと、慌てふためいた向きもありました。反対に、現代制御理論で何ができるのだとか、早く現代制御理論の調節器を作ってみせろとか、現代制御理論のほうも攻撃を受けたりしました。  いささか滑稽な騒ぎになったのは、ひとつには制御技術者というものの社会的な位置づけの問題があったのかもしれません。プロセス制御を例に取れば、機器を作るには機械技術があります。電子式の製品には電子回路に関する専門家がいます。プロセスの現場にくると化学工学や、流体力学、熱力学、すべてに通暁しなくては勤まらない仕事である反面、そこには必ずその道の専門家がいます。制御技術者に共通する問題として、自分たちは現場において何なのかという拠り所が見え難いものなのです。自動制御理論は制御技術者のIDカードのようなものだったのです。それが、ある日、突然古典と呼ばれて、身分証明書が期限切れになってしまったような騒動になったのではないかと思います。

 このシリーズでも折々にお話したように、制御装置は、制御理論が浸透する以前からありました。後から製品を見返せば、これが比例動作、あれが積分動作と分類もでき、制御ループが不安定になった場合には、安定判別法などという数式や、ジグラー&ニコルスのPID調整則など、理論が現場を助けてくれてもいます。電子式の計装機器が開発された時期には、調速器の発明物語のような紆余曲折は経ず、空気式時代に確立された仕様と制御理論に基づいて、一直線にPID機能をもつ電子回路に到達できました。もともと制御理論の大部分は、フィードバック・アンプを範にとり、通信技術者の手で確立されたものではありました。

目的に応じた使い分け

 製現代制御理論は、広範囲な対象をカバーする数理的な手法ですが、その厳密さゆえに必ずしも使い易いツールではありません。状態方程式の上に立脚していますが、厳しい数理的吟味に耐えられる状態方程式を得るのはかなり大変な仕事のようです。それに見合う制御の付加価値が期待されるような場には威力を発揮していますが、一般のプロセス制御での膨大な数のループを制御するには、制御対象の特性をいささか曖昧に近似して、後は適宜パラメータを調整するという、安価で使いやすい汎用PID制御機器のほうが適しています。

 その後、様々な高度な制御理論が導入されていますが、それぞれに目的を持った棲み分けが進み、PID制御は、その中で、ひとつの確立された「製品」として市民権を得ています。

理論と現実

 理論というものは、現実から煩瑣(はんさ)なノイズを削り落として普遍的な法則のみを取り出しているところに価値があります。理論が現実の現場に着地するには、個々の現場において、煩瑣な現実にひとつひとつ直面して、解決して、ようやく現実の技術となりうるわけです。  統括的な論理の世界と、片々たる現場技術、ふたつの世界を融通無碍(ゆうずうむげ)に往復することができて、ようやく一人前の技術者たり得るのでしょう。

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