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エムエスツデー 2005年9月号

計装 今昔ものがたり

第9回 コンピュータとプロセス制御

早稲田大学 理工学総合研究センター 客員研究員 深町一彦

 コンピュータが広く大手企業の事務所に導入され始めたのは1950年代の後半です。人間にはまだ空調が充分装備されない時期にもかかわらず、厳重に温湿度ともに管理されたガラス張りの大きな一室に設置されていて、隣の部屋では、多くのデータをコンピュータに読ませるためにキーパンチャーと呼ばれる若い女性が大勢並んで、データをパンチカードに移す作業をしていました。

プロセス制御用コンピュータ

 コンピュータがプラントの操業に使われ始めたのは、それより少し遅れて1960年代です。事務用コンピュータに比べて、制御用コンピュータは操業の途中で停止することは許されないという堅牢性と、操業中のプラントのデータのリアルタイム処理という問題を解決しなければなりませんでした。

 1963年3月、日本鋼管(今のJFE)の川崎工場で、転炉の操業のコンピュータ制御に成功したという記録が残っています。それまでにもいろいろな実施例の記録はありますが、純国産のコンピュータが、長期にわたり実際の操業で使われ続けたというのは特筆すべきことではないかと思われます。

 図1は、そのときのコンピュータHOC-300の写真です。北辰電機がプロセス制御専用に開発した純国産の制御用コンピュータです。当時は、まだICも普及していない時代で、トランジスタなどのディスクリートな電子部品を基板の上に半田付けして、フリップフロップ回路を1ビットずつ作ったうえで、その基板を並べてコンピュータに仕上げていました。記憶装置は磁気ドラムメモリでした。高速回転とはいえ、回転するドラム上の情報を計算機の記憶に使用するので、ドラムが1回転してくる時間を待ちきれず、ドラム周上のどこに記憶させると、次のデータの読み出しが早くできるかということまで考慮してプログラムを作ったそうです。記憶容量8192語(1語=34ビット+符号)と記録にあります。この容量の中にプログラムを作りこむために、工夫を凝らして1行2行の節約を競い合ったのでしょう。プログラムには独自に作った命令語を使用していたようです。

図1 HOC-300制御用コンピュータ図2 HOC-300でコンピュータ制御した転炉

 東京オリンピックでコンピュータを利用した大掛かりな速報システムが世界に報じられたのはその翌年、1964年でした。1965年、当時の三井銀行本店が、普通預金業務のオンラインリアルタイム処理を始めました。その後、プロセス制御にもコンピュータの導入が急速に普及してゆきます。

コンピュータと製鉄産業

 鉄鋼産業は非常に早くから計装に注力し、とくに燃焼と熱の管理には早期から深く関わってきました。昭和11年には、溶鋼の温度計測に関する研究会が発足しています。やがて油圧噴射管式のコントローラの時代を経て、空気式調節計の時代へと移り変わってゆきます。手元に、日本鉄鋼協会編の「熱経済技術要覧・計測編」(昭和28年)がありますが、製鉄会社の技術者たちによって、多岐にわたる計器の説明、取り扱い、保守、工事など実に事細かに記載されています。

 製鉄は歴史が古く、経験を積み重ねて神技に近い操業を完成させてきましたが、一方では、早くからその解析を進め、多くの熟練作業者の実務をデータベース化し、コンピュータに載せるという膨大な作業を続けてきています。

 雄大な機械構造物が立ち並ぶ製鉄所は、今や、膨大な数のコンピュータ群が形成する、巨大な制御システムの集積でもあります。最終製品を扱う圧延工場では、装置の巨大さと運転の豪快さに目を奪われがちですが、その仕上がり精度がミクロンレベルに達していることを聞かされると、驚くよりも不思議な気分になってきます。削岩機で虫歯の治療をしている情景を想像してしまいます。ひとつの鋼材が何回も圧延機のロールの間を通ってゆきますが、前回の圧延工程による変形の量から、次の圧延工程の圧下量をリアルタイムで逐次計算して、精度の高い制御を可能にしています。

 一般にプロセス制御では、アクチュエータといえばコントロールバルブを指しますが、製鉄所では、アクチュエータとは、いくつあるのか数え切れないロールを駆動する、巨大な電動機のことです。この電動機の速度制御は±0.004%に達しているとのことです。

図3 圧延機 もうひとつの製鉄工場のコンピュータ管理技術の巨大さは、製品の多様性にあります。製品の種類は、ひとつの製鉄所で20万種とも30万種ともいわれています。しかも受注生産なのです。圧延ラインの上を走っているそれぞれの鋼板は、どの自動車工場の、どの車種のどの部分に使われる鋼材かすでに決まっています。造船所のどの船のどの部分に溶接されるために、いつ出荷されるべき鋼板かまで決まっています。次々に作られてゆく製品は、上流の工程から最終製品の鋼板になるまで追跡されて、その履歴が記録されてゆきます。これを完全に成し遂げるには、コンピュータによる大量のリアルタイム処理が必要になります。

 1968年、新日本製鐵(株)君津工場に完成した圧延工場は、初めから全工程の操業をコンピュータによって管理することを前提に、計画、建設されたことで、NHKスペシャルでも放映されました。このときのコンピュータはIBMのシステム360だそうです1)

計測技術の開発

 こうしたコンピュータによる壮麗な制御が可能になる背後には、現場からリアルタイムにデータを送り続ける計測装置の存在があります。高炉の炉内の状態、溶鋼の温度や組成、圧延中の鋼材の形状など重要だが計測が難しい変数が数多くあります。プロセスの深奥に迫るこうした計測技術の数々が非常な努力を重ねながら開発されてきました。「山あれば山を崩し、谷あれば谷を埋め」という言葉を思い起こさせるような歴史が埋まっています。

横に縦に、そして統合へ

 製鉄産業の例をお話ししましたが、石油精製、石油化学のように流体を主に扱うプロセスでは、まず差圧伝送器と調節器のような汎用の機器で大量に計装して、各部の温度、圧力などを基本ループによって一定に保ったうえで、コンピュータから各制御ループの設定値を指示して操業を最適化する手法を広げてきました。

 当初、温度計、流量計、調節計などで構成されていた制御装置は、機器のデジタル化と相俟って、量的な広がりと制御システムの多層化、高度化、そして企業全体を統合する巨大システムへと成長してきました。

◆ 参考文献 ◆
1) 「新・電子立国 5 驚異の巨大システム」、 相田 洋、 荒井 岳夫 著、日本放送出版協会、 1997年   

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