エムエスツデー 2006年5月号

工場通信ネットワークのお話

第5回  PA用のフィールドバス

NPO法人 日本プロフィバス協会 会長 元 吉 伸 一

PA用のフィールドバスの特長

 石油精製、石油化学、化学、電力、鉄、非鉄などの装置産業の工場で主に使われるフィールドバスは、前回説明したFA用フィールドバスとは異なった特長をもっています。それは本質安全防爆への対応と2線式伝送です。

 本質安全防爆とは、機器に供給する電気エネルギーを発火点以下にすることです。石油精製、化学、食品などの工場では、現場に爆発性のガスが存在する場合があります。このとき、機器から火花が飛ばない、つまり発火するエネルギーをもたない機器であれば、爆発の原因とはなりません。本質安全防爆の機器は、このような小さなエネルギーで動作します。

 2線式伝送とは、機器につなぐ配線を1対の電線とし、その2本の電線に機器の駆動用電源と信号の両方をのせる方法です。

 現在、本質安全防爆と2線式伝送の両方をサポートするフィールドバスは、FOUNDATION Fieldbus(以下、FFと書きます)とPROFIBUS PAの2種類しかありません。

PA用フィールドバスの普及状況

 プロフィバス協会が2005年にフィールドバスの累計設置台数のグラフ(図1)を発表しました。このグラフでは、PROFIBUSの突出した設置台数が目につきますが、それと同時にご注目いただきたいのは、FA用のフィールドバスとPA用のフィールドバスの設置台数の差です。

図1 全世界のフィールドバス設置台数

 FFとPROFIBUS PA、どちらもほぼ同じ設置台数、つまり2004年末で50万台くらいです(2005年9月にFOUNDATION Fieldbusの大会が岡山・倉敷であり、そのときFFの設置累計台数は、約55万台との発表がありました)。

 それに比べて、FA用のフィールドバスの設置台数は、PROFIBUSだけで約1300万台とPA用に比べて圧倒的です。PA用フィールドバスの設置台数は合計しても、PROFIBUSの10分の1にもなりません。FAのアプリケーションとPAのアプリケーションの規模は不明ですが、これだけ差がつくくらいマーケットの大きさが異なるというより、フィールドバスの普及はFAで進んでおり、PAでは遅れていると考えるべきでしょう。それでは、なぜPAのアプリケーションでフィールドバスの導入が進んでいないのでしょうか?

 1)PA用フィールドバスの完成が遅かった。

 PA用のフィールドバスの議論は1980年代初めという、早い時期からスタートしています。しかし、その後国際規格化活動の分裂などがあり、結局PA用のフィールドバスとしての規格ができたのは、1990年代後半と遅くなりました。当時FA用のフィールドバスはすでに普及期を迎えていましたから、PA用のフィールドバスの出発が遅かったといえるでしょう。

 2)フィールドバスだけの機能ではなく、トータルシステムとして考える必要があった(とくにFFの場合)。

 FFのスコープは単にフィールドバスの一種というだけではありません。もちろん、FFはPAの現場でのデジタル通信規格ですが、それと同時にFFの中には従来のPAのシステム構成をデジタル通信を使い大きく変えたいという考えがあります。具体的には、これまでDCSの内部で行われていた制御演算(とくにPID演算)を、現場機器で行う。つまりDCSのコントロール機能を現場機器に分散してもたせる、現場機器への分散制御という考えです。図に描くと図2のようになります。

図2 FFのスコープは通信だけではない

 この考え方が正しいかどうかはさておき(筆者には疑問があるのですが)、普通のFA用のフィールドバスとか、PROFIBUS PAが従来のアナログ伝送の代替として、フィールドバスを提案していたのに比べて、FFの目標とする範囲が現場機器のデジタル通信だけとは大きく違うことは納得いただけると思います。

 その結果、従来のシステムのアナログ伝送のリプレースとして、PA用のフィールドバスを簡単に採用するわけにはいかなかったのです。

 3)装置の寿命が長いので、更新の時期がなかなかこない。

 石油精製、化学などのPAの工場では、工場の寿命が一般にFAの装置などと比較して長く、20年から30年といわれています。したがって、PA用フィールドバスを導入する時期はそれほど頻繁にはありません。また、新しい技術は大きな工場、設備に導入する前に、比較的小さな設備で試してから本格的な導入となりますので、さらに時間がかかります。このような装置産業がもつ特性のため、フィールドバスの普及が進まなかったこともあります。

 4)日本経済の不況で客先にお金がなかった。

 日本の場合、バブル崩壊後、景気があまりよくありませんでした。企業もコスト削減を進めるため、現場のオートメーションにお金を投資しなかったきらいがあります。言い訳というのではないのですが、これも一つの原因です。

今後の展開

 筆者は、以上の状況にもかかわらず、今後PA用のフィールドバスもFA用と同様に大きく普及が望めると考えます。その理由としては、FAの場合と同じく省配線ということだけでなく、以下に挙げるような背景が考えられるからです。

 1) 現場機器のインテリジェント化が進んでいるため、ネットワークで機器の情報を吸い上げないと、せっかく現場機器がもっているデータを有効活用できなくなります。PAの現場では、ますますエンジニアの仕事が増えており、作業をサポートするため、フィールドバスを利用することが必要になります。たとえば、保守作業を楽にするアセット管理などのソフトも登場してきていますが、現場の情報を手入力でなく自動的に入力するには、現場機器のネットワーク化が不可欠になります。

 2) PAの工場であっても、FAのアプリケーションは必要です。たとえば、原料の入荷、製品の出荷などはFAのアプリケーションですし、メインの工程でもポンプ、インバータ、MCC(Motor Control Center)、分析器、リモートI/Oなどとの取り合いはFA用のフィールドバスを使用します。FAのアプリケーションでフィールドバス対応品が増えると、ユーザーからは、FAとかPAとか関係なく、現場で稼動する機器すべてをネットワークにつないで、監視・設定を行いたいという要望が出てきます。つまり、FA用フィールドバスに引っ張られる形で、PAのアプリケーションでもフィールドバスの採用がすすむことが考えられます。

 3) 日本では景気がだんだん回復してきたので、これから新しい工場が建ちそうです。新しい工場であるほど、すべての機器がはじめから設置されるわけですから、フィールドバスの導入が容易になります。また、現在フィールドバスを導入しないと、工場の寿命、つまりあと20~30年は導入が難しくなるわけです。将来の工場のオペレーションを考えると、今導入しなくてよいのかという議論は、当然起こってくるでしょう。実際、中国・東南アジアなどでは、フィールドバスを採用した新しい工場がどんどん建設されています。

 以上、PA用フィールドバスの状況について説明しました。次回からは、汎用ではなく専用用途向けの工場現場におけるデジタル通信について説明します。

◆ 参考 ◆
• 日本フィールドバス協会のURL:http://www.fieldbus.org/International/Japan/
• 日本プロフィバス協会のURL: http://www.profibus.jp/


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