エムエスツデー 2006年1月号

工場通信ネットワークのお話

第1回 オートメーションとデジタル通信

NPO法人 日本プロフィバス協会 会長 元 吉 伸 一

 『エムエスツデー』をご覧の皆様、こんにちは。今回からしばらく、工場通信ネットワークのお話を連載させていただきます。連載中に話は少しあちこちに飛ぶかもしれませんが、よろしくお付き合いお願いします。また、ご質問、ご意見等あれば、ご遠慮なくお知らせください。

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 さて、本稿を読まれている読者のほとんどが、製造業に関係する仕事、または工場などで機械を扱っている仕事に何らかの形で関係・従事されていることと思います。現代は“オートメーション”の時代であり、工場のもの作りに自動化された機械を用いていらっしゃる方、またはオートメーションシステムの設計をされている方なども多いのではないでしょうか?

  私がこれからご説明させていただく、工場ネットワークがオートメーションとどのように関連しているかを、はじめに明確にしたいと思います。

オートメーションとは

 セミナーなどで“制御”とか“オートメーション”の説明をするために、私はよく図1を使います。つまり、制御には3つの要素がある。1つ目は“測定”、2つ目が“判断”、そして3つ目が“操作”となるわけです。制御の厳密な定義ではないかもしれませんが、身近な“お風呂の温度を調節する”ことでこの図を説明すると、皆さんに大体納得していただけます。お風呂の場合、制御の目的は、“お風呂の温度を適温にする”ということです。“適温にする”とは、自分の希望する温度範囲にお風呂の温度を変化させることです。

 私たちが機械を使わずに(つまり自分で)、お風呂を適温にしたい場合、まず、自分の手をお風呂に入れてお湯の温度を測定します。これが、1番目の要素である“測定”です。次に、測った温度を、熱いか、ぬるいか、適温であるべき状態と比較する2番目の要素の“判断”があります。最後に、判断の結果により、測定した温度が自分の希望する温度より熱ければ蛇口をひねって水を入れたり、ぬるければガスバーナーで追い炊きしたりする3番目の“操作”の要素が加わるわけです。

 これらの要素の実行を人間が行うのでなく、機械に実行させることが“自動制御”であり、オートメーション(オートマティックオペレーション)になります。

 私たちが“測定”、“判断”、“操作”の3つの要素を自分ですべて行うなら、あまり意識はしないのですが、機械にこの制御を実行させるとき、機械は“測定”なら“測定”、“判断”なら“判断”、そして“操作”なら“操作”の単一機能しかもっていないことが多いため、各要素間でデータを伝達するという、4番目の要素“通信”が必要になります。

 前置きが長くなりましたが、私がこれからお話しする工場ネットワークは、製造現場におけるこの通信という要素を受け持ちます。なお、今までのオートメーションでもこの要素間の通信は必要でしたし、具体的にはアナログ伝送が使われてきました。

 工場ネットワークがアナログ伝送と違うところは、“現場機器と制御機器間を結ぶデジタル通信規格に従っている”ということです。

デジタル通信

 3~4年前まで、私たちが工場ネットワークのメリットを説明するときは、従来この通信に使われてきたアナログ伝送と比べて、デジタル信号を使った通信がいかに優位性をもつかをメインに説明してきました。

 たとえば、
 1)アナログ通信ですと、現場機器から信号1点について、1対の配線が必要になります。つまり、現場機器が数百、数千の数になりますと、そのケーブルだけで非常に多くのコストがかかり、かつ通信の中継端子台(時には1部屋を占領する中継盤)も使用しなければなりません。デジタル通信は、多重伝送ができますから、複数の機器からのたくさんの信号を1本のケーブルにまとめると同時に、1個の機器からも複数の信号を1本のケーブルで取り合うことができます。つまり、1本のケーブルに数十から数千の信号を乗せることができ、コストの削減につながります。

 2)現在の制御機器はほとんどがマイクロプロセッサ(CPU)を内蔵して、制御演算を行っています。そのためデータはデジタル形式でCPUに取り込まれます。ということは、測定機器から送られてきたアナログデータをデジタル形式に変換(AD変換)しなければならないということです。通常、このとき変換のエラーが発生します。このエラーは、演算結果を操作機器に送るときのDA変換でも発生します。デジタル信号でデータの受け渡しを行う場合、データの劣化は起こらないため、正確な制御をしたいなら、デジタル信号ですべてを通して行うことが望ましいといえます。

 3)データの取り込みだけでなく、現在はデータの保管についてもデジタルメディアを使うことが主流になっています。そのため、デジタル通信を採用することは、保管しやすく、再現しやすく、かつ他のアプリケーションにも渡しやすい形で、信号を表現することになります。

 しかし、最近ではデジタル伝送のメリットを説明しても、“何を今さら”という方が多いでしょう。なぜなら、現在オフィスの世界を見ると、コンピュータ、PCの発展と浸透により、今ではコピー機、ファックスまでもがデジタル通信、デジタル処理の機能をもっています。そして、各コンピュータ、PC、コピー機などをネットワークでつなぐことによって、オフィスの生産性は以前とは比較にならないほど高くなっています。この生産性を高める原動力は、PCの高機能化・低価格化とともにネットワークであり、そのネットワークは当然アナログではなく、デジタル通信であることは皆様ご存知のとおりです。

 その上、工場ネットワークの多くは1990年代に仕様が決定し、ほぼそのままの仕様で現在も使われています。オフィスの世界では、Ethernetの速度が10Mbps、100Mbps、1Gbpsそして今では10Gbpsと急速に標準仕様を拡大しています。10年以上、またはそれくらいの技術がまだ使用され、しかも普及の途上であることはいささか不思議に感じませんか。

 私が若いころ、よく“工場のオートメーションに比べて、オフィスのオートメーションは進んでいない”との記事を雑誌・新聞などで、見かけました。要するに、オフィスでは仕事をするときに人間の介在が多すぎて、機械化が進行していないのに、工場ではボタン1つをONすれば、製品ができてくるので、オートメーションのレベルは工場の方が上だとの記事であったと記憶しています。しかし、いろいろ批判はあるかもしれませんが、現在では、オフィスのオートメーションがインターネットなどグローバルな広がりを得て、ますます進化している(OA化というよりIT化といわれている)のに対し、工場のオートメーションはその伸びを止めているような気がします。

 コンピュータの世界にはメカトフの法則があり、“ネットワークの価値はそこにつながる端末数の二乗に比例する”といわれています。私たちは工場ネットワークというデジタル伝送の技術を使って、工場のオートメーション機器をオープンなネットワーク環境に接続し、工場ネットワークの価値、そしてオートメーションの社会的価値も高めていきたいと考えています。

 “デジタル通信の良さは分かる”、“デジタル通信を採用するメリットも分かる”、しかし“工場現場に工場ネットワークの導入はどうするのか”という現状に対し、この連載の中で、何か回答に近いサジェスチョンを皆様とともに見つけていければ幸いであると考えます。


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