エムエスツデー 2006年8月号

データロガー今昔

第6回(最終回) レビュー:データロガーの過去と現在

 本連載も今月で最終回となりました。本連載ではこれまでに、計測、制御分野におけるデジタル技術の代表例として「データロガーシステム」にスポットを当て、その姿が時代とともに移り変わる様子について、現在を起点として約10年単位で過去に遡って追跡してきました。そして前回(2006年7月号)では、我が国における工業用コンピュータの黎明期(1960年代初頭)の様子についてご紹介しましたが、読者の皆様は、どのようなご感想をお持ちになられたでしょうか。

 往時を知る読者の皆様の中には、懐かしさと同時に「隔世の感」を抱かれた方もいらしゃると思いますし、また、若い世代の読者の皆様にとっては、現実離れした、いささか滑稽にも思える昔話だったかもしれません。

 ともあれ、本連載の主旨は、データロガーを例に挙げ、過去を振り返ることによって、現在、私たちが置かれている技術的、経済的環境がいかに恵まれたものであるかを読者の皆様にお汲みとりいただきたい、ということにあります。

 そこで、最終回ではこれまでに紹介した各世代のデータロガーについて、価格、性能面からの移り変わりを俯瞰(ふかん)し、現在のデータロガー製品が置かれている状況を明らかにしたいと思います。

データロガーの変遷と コストパフォーマンス

 これまでの連載で取り上げてきたデータロガーの種類をレビューしてみると、次のようになります。

 • 1960年代(連載第5回 '06年7月号): コンピューティングロガー

 • 1970年代(連載第4回 '06年6月号): 計算機制御とロガー

 • 1980年代(連載第3回 '06年4月号): DCSのデータロガー機能

 • 1990年代(連載第2回 '06年2月号):パソコン(PC)計装におけるデータロガー

 • 2000年代(連載第1回 '06年1月号):PCとWeb、SCADA

 改めて見直してみると、上記は各時代時代のデジタル技術の象徴ともいえるタイトルになっており、技術史的にはたいへん大きな意味をもっています。しかし、世の中は「役に立ってなんぼ」でもあり、ここは、データロガーとしての利便性と経済性に着目して振り返ってみます。

 物の価値を測る指標として、コストパフォーマンス注)があります。ここでは、データロガーの過去と現在をコストパフォーマンスで比較してみます。

表1 データロガーの年代別によるシステム価格と性能の比較

年 代
ロガーの種類
(形態)
ロガーの
機種例
システム
価格(円)
物価
指数 *3
性能
係数
コスト
パフォーマンス
CPUクロック
速度(MHz )
〈参考〉
1950~1960 コンピュー
ティング
ロガー
HOC300*1
30,000,000
18.6
1.0
1
0.0003
1960~1970 計算機制御 と
ロガー
HOC700*1
20,000,000
32.4
2.0
5
3
1970~1980 DCSの
データロガー機能
各社DCS
56,000,000
76.6
3.0
7
6
1980~1990 パソコン(PC)
計装における
データロガー
MsysNet*2
16,000,000
93.1
7.0
66
75
1990~2000 PCとWeb、SCADA SCADALINX*2
3,000,000
100.0
10.0
538
3,000
*1:旧北辰電機製作所製品    *2:エム・システム技研製品
*3:物価指数のデータは総務省統計局発表の消費者物価指数(CPI)のデータ(家賃、生鮮食料品を除く総合物価指数)を参考におおよその値を示します。

 

 表1は、上記の連載1回目(エム・システム技研製の「SCADALINX」を中心に構成されたデータロガー:図1参照)から5回目(旧北辰電機製のプロコン「HOC300システム」によって構成されたデータロガー:図2参照)までをシステムの価格と性能で比較したものです。

図1 SCADALINXによるデータロガー構成例

 ここで、価格はともかく、性能の比較に関しては大変難しい問題があります。つまり、CPUのクロック速度やメモリの容量など、データロガーの中心である計算機自体の性能は大きい進化を遂げているわけですが(とくにパソコンの時代になってからの性能の進歩には著しいものがあります:図3参照)、データロガーとしての性能という観点からみれば、いずれの時代におけるシステムも「操業データを収集し、記憶媒体や記録紙などの媒体に記録(ログ)を残す」というデータロガーの基本的な機能要件を実現するための性能はそれなりに満たしていたからです。しかしながら、データロガーの付帯機能や付加価値といった観点からは、過去と現在では大きな違いがあります。

図3 パソコン性能の進歩

図2 HOC300コンピュータ((株)北辰電機製作所製)


 たとえばHMI(ヒューマン・マシンインタフェース)機能を比較すると、60年代と現在では次元が異なるほどの相違がありますし、収集した操業データを処理してアプリケーションに供する各種のソフトウェア機能の豊富さとその性能に関しては、往事と現在では比較することさえできないほど隔たりがあります。

 したがって、客観的なデータに基づく性能比較を行うことはきわめて困難であるため、ここでは前述の諸条件を加味しつつ、(筆者の主観と独断により)データロガーとしての総合的な性能を一意的な係数(性能係数)として表すことにしました。

 さらに、コストに関しては、過去と現在の物価指数を加味してコストパフォーマンスを算出しました。結果として、1960年代のHOC300システムのコストパフォーマンスを1としたときに、現在の SCADALINX によるデータロガーは538という数字が出てきました。これは裏を返せば、現代は、同じ規模、性能のデータロガーが、60年代に較べて538分の1の価格で実現できるということを意味します。さらに、システム構成の簡素化による工事費の低減やエンジニアリング性能の向上による人件費の削減なども考慮に入れれば、その違いはさらに大きなものになります。

お わ り に

 コストパフォーマンスの比較でも明らかなように、現代は、経済的なコストで高性能なデータロガーをきわめて容易に導入できる時代です。かつて、データロガーを導入するユーザーは規模の大きなプロセス産業などに限定されていましたが、現在ではプロセス産業のみならず、ビル空調設備、電力設備、ラボ、気象観測設備、セキュリティ関連設備、福祉関連施設、公共施設(上下水道)など、規模の大小を問わず多くの現場にデータロガーが導入されています。

 また、最近では2006年4月1日に改正された省エネ法によって、エネルギー管理の対象工場や事業所の数が全国で約3割増えるとの推定もあり、今後、コストパフォーマンスの高いデータロガーの需要がますます増加するものと予測されます。

 データロガーをはじめとするデジタル製品の進化は日進月歩であり、それほど遠くない将来、本稿で紹介した現在のデータロガーより遙かに進んだ製品が出現し、現在の製品が歴史上の事例として語られる日が来るかもしれません(歩みの速度はともかく、間違いなくそのようになるでしょう)。

 しかし、このように隆盛をきわめる計測、制御分野におけるデジタル技術の原点には、工業用コンピュータの黎明期における技術者達のパイオニア精神と熱意、そして絶え間ざる努力がありました。そのことが、今後も忘れ去られることなく語り継がれていくことを切望しながら本連載を終了させていただきます。

注)コストパフォーマンス:価格性能比。ある商品に設定された価格の妥当性を形容する際に用いられる言葉で、一般には価格に対して期待される性能[内容]と比べ、実際の性能が釣り合っているかそれ以上の場合には、「コストパフォーマンスが良い」もしくは「高い」と形容します。
【コストパフォーマンス(CP)の基礎数の算出式】
  CP基礎数=性能指数÷物価を加味したコスト
  物価を加味したコスト=システム価格÷物価係数

SCADALINXMsysNetは、エム・システム技研 の登録商標です。

【(株)エム・システム技研 システム技術部/開発部】


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