エムエスツデー 2005年6月号

計装 今昔ものがたり

第6回 バルブを操作する

早稲田大学 理工学総合研究センター 客員研究員 深町一彦

そもそも始まりは 

 前回はバルブの話をしたので、それに続いてバルブを操作する駆動部の話をします。

 昔は調節機能そのものが空気圧のメカニズムだったので、その出力を直接ダイアフラム駆動部に接続してコントロールバルブを駆動していました。簡単な機構で大きな力が得られる重宝な駆動部でしたが、コントロールバルブの口径が大きくなると、駆動力も大きいものが必要になり、長い配管を介して給排気を行うと作動速度が遅くなり、また、バルブの作動時の摩擦や流体の反力によって、駆動部の位置が一定しないなどの問題が生じ、対策としてポジショナが作られました。図1は、昭和30年頃のダイアフラム駆動のバルブに、空気信号で作動するポジショナが付属したものです。

図1 空気式ポジショナ付きコントロールバルブ(昭和30年頃)図2 電空変換器付きコントロールバルブ(昭和35年頃)

今でも空気圧

 全電子式計装の時代を経て、機器にマイクロプロセッサを搭載するのが常識になった今日でも、大部分の駆動部は依然として空気圧で駆動しています。計装空気配管を工場全体に張り巡らす煩わしさを嫌って、電動機駆動のコントロールバルブも種々のものが開発され、使われてはいますが、石油、石油化学の現場で大型のコントロールバルブを駆動する防爆構造の電動駆動部となると非常に大きくなり、コスト的にも折り合いがつかず、依然空気圧駆動が主流となっています。また、万一電源が断になった場合、緊急操作をどうするかなど、解決しなくてはならない問題がいくつか残っています。

 電子式計装になって操作端として初めに開発されたのは電空変換器でした。電流信号をトルクモータと呼ばれる電磁機構で力に変え、ノズルフラッパを動かして空気圧に変換するもので、出力圧が機械的にフィードバックされるものです。電流信号がミリアンペアクラスなので、力に変換するにも苦労しました。図2は昭和35年頃の電空変換器のカバーを外した写真です。左上にある丸いものは、大きなボイスコイルです。

 続いて、駆動部の軸位置をフィードバックする電空ポジショナが開発されました。この頃になるとトルクモータも今日のコンパクトな形のものが作られるようになりました。

 ここで昔話をひとつ。戦中から戦後にかけて大衆向けのラジオのスピーカーは、マグネチックスピーカーと呼ばれる馬蹄形の永久磁石を使ったもので、今日のボイスコイル型に比べると、音質は落ちるが小型で高インピーダンスの効率のよいものでした。これを思い起こして今日のトルクモータの原形が開発されました。

 最近ではポジショナもデジタル化が進み、その結果トルクモータの構造も変貌しつつあります。

ノズル・フラッパと計装用空気源

図3 ノズル・フラッパ原理図 ノズル・フラッパは空気圧計装機器に必ず使われるもので、図3に示すように、簡単な構造と微小な力による僅かな変位を空気圧に変換する機構です。ミクロンレベルの動きが空気圧に変換できるので、高いゲインを得ることができ、空気圧のメカニズムには必ずといってよいほど使われています。内径0.2から0.5mmくらいの細い固定絞り抵抗の中を空気が通るので、作動空気中にごみ、油滴、水分の結露などがあると機器が作動しなくなります。かつてはすべての計装機器が空気圧で作動していたので、ひとつのプラントの計装で何百というノズル・フラッパ機構が使用されていました。そのどれかひとつでも故障すると、プラントの操業は足元を掬われることになるので、非常に高い関心を払って計装用空気源を設備したものです。ところが、現在は計装機器の中で空気圧を使用しているのはコントロールバルブだけになってしまいました。そのため空気源設備への関心も薄れて、作動空気の汚れによるポジショナのトラブルが増加気味です。中には工場用空気をフィルタを通しただけで使用しているようなケースも見られます。IC回路に100V電源を直接接続するようなもので、数日で作動しなくなることすらあります。

 この計装用空気源とノズル・フラッパの問題は、最新のマイクロプロセッサ搭載の電空ポジショナでも避けられない問題です。作動不良の場合に警報を発信する自己診断機能付きの製品もあります。

複動シリンダーが増えています

図4 複動シリンダー駆動大口径コントロールバルブ コントロールバルブの駆動部としては、ダイアフラム駆動部が代表的なものとされていますが、最近になって複動シリンダーを使用するケースが増えてきました。ダイアフラム駆動部は構造も簡単で扱いやすいのが特徴ですが、空気圧の力の大部分はカウンタースプリングを圧縮し位置決めするのに費やされて、操作力としては力の効率はよくありません。また、ストロークに限界があります。複動シリンダーの場合、ピストンにかかる圧力のすべてが操作力になります。ダイアフラムに比べて構造が堅牢なので、より高い空気圧を利用することもできます。大口径のバルブや、流体圧力が高い場合など複動シリンダーでなくては操作できないものもあります(図4)。ただし、複動シリンダーはダイアフラムと作動特性が異なり、空気圧に応じて停止するということがありません。差圧がある限りどこまでも動き続けます。このためポジショナに要求される作動特性がダイアフラム駆動部のそれとは異なります。さらに、スプリングが入っていないので、空気源が断になったとき駆動部はその位置でフリーになり、緊急作動ができません。そのために、補助の空気タンクに圧力を蓄えたり、緊急作動用のスプリングを装着したりと各社工夫を凝らしています。

長い歴史に新しい動き

 コントロールバルブと駆動部について2話続きました。計装という以上避けて通るわけに行かない話題ですが、今昔物語というには、今昔の対比が難しい機種でした。歴史の長さに安住して、工学的な解析が疎かにされてきた側面もあります。近年ISAでは動特性について、かなり詳しい見解を打ち出しています。あらためて再検討すべきことも多々あります。

 また、計装機器の中で保守に最も工数がかかる機種だそうです。この数年、フィールドバスの議論の中で、バスを利用した自己診断機能を生かす対象として、バルブとポジショナはいつも話題になり、製品化もされています。

 いろいろな技術の進行があって、ここでお話したようなことを本当の昔語りと言える日が来るのを待っています。


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