エムエスツデー 2013年7月号

ごあいさつ

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

(株)エム・システム技研 代表取締役会長 宮道 繁

 古い話になりますが、1960年頃の出来事です。
 お名前をはっきりとは思い出せないのですが、ソニー(当時は「東京通信工業」)の研究所長をしておられた方の講演を拝聴する機会がありました。
 その時に話された内容が思いがけないものだったのでよく覚えているのですが、「ソニーがトランジスタラジオを世界に先駆けて発売したのは、当時、世の中ではどこにもトランジスタを使って物作りをする会社がなかったので、せっかく自社で開発・製造したトランジスタの売り先がありませんでした。そこで、まず自社内に需要を用意しようと考えたからです」とはっきり述べておられました。
 その当時ソニーは、すでにトランジスタラジオで日本国内はもちろんのこと、世界市場へと発展しつつあっただけに、ソニーが半導体メーカーを目指していたんだということを改めて理解しました。
 ちょうどその頃のことだと思われますが、ソニーの創業者井深大さんが、私が勤めていた北辰電機にシリコントランジスタを売り込みに来られたらしいという話を、それから40年も経った2000年頃に友人から聞いて、懐かしい昔に思いを馳せました。

 1960年代の中頃には、ソニー、富士通、NEC、沖電気など、半導体のメーカーが立ち上がり始めましたが、その頃三菱総研の社長をしておられた牧野昇さんのお話を伺う機会がありました。
 その話がまた、私の思い込みを覆す次のようなものでした。「今、半導体メーカー各社は破竹の勢いで成長を続けていますが、ご来場の皆さんは半導体メーカーを目指すべきではありませんよ。半導体は、使う側にまわった方がずっと楽に利益を上げることができます」というものでした。それは正に卓見でした。
 その後は、半導体技術の激しい開発競争が続き、半導体メーカー各社は急激にその規模を拡大してゆきました。
 その結果として、半導体部品は、毎年高性能化と小形化と低価格化が進み、トランジスタからICへ、そしてLSI、超LSIと続き、システムLSIへと進展してゆき、またその途上において開発スピードで遅れをとった会社は、たちまち破綻の道へと追いやられる厳しい結果となりました。
 それに引き替え、半導体部品を使う側にまわった電子機器メーカーは、牧野さんのおっしゃったとおり、使用する部品の小型化、高性能化の後押しを得て、良くて安い機器を売り出して利益を上げることができました。
 その中の一社にエム・システム技研があることは、言うまでもありません。

 さて、この半導体革命とも呼ばれた時代が最近まで50年以上続いているわけですが、この間に世の中は大変革を経験してきました。
 高度成長からバブル経済の崩壊、そして物作りをする工場の海外への大流出と、目まぐるしく変化してゆきました。

 そして今、私たちの工業計器業界も大きく変わりました。
 まずPA(プロセスオートメーション)に関しては、大口の需要先となる工業プラントの建設が国内ではほとんど姿を消す一方、過去の高度成長期に完成した工業プラントの計装機器が、耐用年数を経て更新すべき時期が続々と押しかけて来ています。
 大手工業計器メーカーにとっては、生産体制を維持するだけの量的需要がなくなった上に、半導体革命の進行と共に従来製品の急速な陳腐化が進み、製品内容をアップデートするための開発投資に見合うだけの採算が見込みづらいこともあって、縮小、撤退の方向が明らかになってきたように思われます。

エム・システム技研の自動生産ライン

 エム・システム技研は、発足当初から計装機器の汎用品化を進め、「システム構築の仕事はお客様、便利な計装機器を提供するのはエム・システム技研」という形になってほしいと考えてきました。そうすれば、ユーザー、システムメーカー、機器メーカーの三方が調和して発展できるに違いないと思って、今日まで活動してきたのは正解だったなあと思っています。
 FA(ファクトリーオートメーション)やBA(ビルオートメーション)の世界でも、同じことが言えるのではないでしょうか。

 米ピッツバーグ大学で経済学を修めて博士号(Ph.D.)を取得され、ニューヨーク州立大学で教鞭を執っておられる入山章栄博士が、「世界の経営学者はいま何を考えているのか」と題する著書を出しておられます。
 その中に、「企業の究極の目的は持続的競争優位を獲得することだ」と説いておられます。全く同感です。企業が持続的優位を失ったらどうなるかを考えれば、当然の事を言葉にされただけだと思います。そしてその究極の目的を達成するためには、企業はその業界において独自の「ポジショニング」を得ることが大切だとも述べておられます。

風鈴イメージ

 エム・システム技研は、前述のとおりあらゆるオートメーションシステムを構築するのに必要な計装用機器を取り揃えて、多品種・少量生産、短納期でお届けするという「ポジショニング」を獲得する方向へ努力を重ねて参りましたが、これは理論的にも裏付けされた道であったのだと感じました。

 電子機器を生産するメーカーにとって重要な要素の一つに、電子部品の変遷への対応の問題があります。電子部品が高度化すると、その結果として従来の部品が新規に開発された部品に取って代わられ、次々に生産中止される部品が発生します。
 新製品を設計するのには誠にありがたい環境なのですが、同じ製品を10年、20年と作り続ける必要のある計装機器の生産現場では困ったことが起きます。
 「廃形をしません」をポリシーに掲げるエム・システム技研にとって、過去に発売した製品と同一形式の製品を作り続けるためには、廃形部品の発生に対応する設計変更が常時必要になり、かつ、この設計変更をいつまでもやり続けねばなりません。
 この作業は、今では当然のこととして、社内で整然と処理をする仕組みができあがっていることは申すまでもありません。この仕組み作りは、オートメーション機器の専門メーカーとして、独自の「ポジショニング」を維持するための重要な仕事であったと確信しています。

 エム・システム技研は、いつまでも、お客様サイドに立つメーカーとして活動して参ります。どうぞご期待ください。

天神祭 = 大阪市北区

(2013年6月)


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