通信/ネットワーク

エムエスツデー 2015年1月号

計装豆知識

HART7(その2)印刷用PDFはこちら

前回に引続き、HART7 通信プロトコルの機能を説明します。

HART7の主な機能

HART通信プロトコル Revision 6、7で追加された機能を説明します。主な機能を表1に示します。

表1 HART通信プロトコルのRevision 6、7で追加された機能
主なHART通信プロトコル機能 Revision
6 7
1 Long Tag(32文字)
2 Configuration Change Counter
3 Extended Device Status
4 Device Variables with Status
5 Multiple Analog Outputs
6 Burst Message
7 I/O Systems and Sub-Device
8 Block Data Transfer(ブロックデータ転送)
9 Condensed Status (NAMUR*1 NE 107*2  
10 Event Notification  
11 Data Trend  
12 Synchronized Device Actions  
13 Read Aggregated Command  
14 Catch Device Variable  
15 Wireless  

(HART協会の資料をベースにエム・システム技研独自に作成)

(1)Long Tag

HART機器の普及に伴い、ユーザーからの強い要求により、32文字長のLong Tagが追加されました。すべてのデバイスに必須な機能です。

(2)Configuration Change Counter

デバイスの各種のパラメータ(構成情報)の変更を記録するカウンタであり、変更作業は1回でも同時に複数のパラメータ(たとえば3種のパラメータ)を変更した場合のカウント数は+3になります。このカウンタによって、構成情報のバージョン番号が示されます。

(3)Extended Device Status & (9)Condensed Status

従来のデバイスステータスに加えて、拡張デバイスステータスが追加されました。この中にNAMUR*1 NE 107*2に準拠したCondensed Statusが定義されました。多種多岐にわたる診断結果や異常状態は、そのままではユーザーがとるべきアクションを混乱させてしまいます。そこでNAMUR NE 107では、F=Failure、C=Function Check、S=Out Of Specification、M=Maintenance Requiredの4つのステータスを定め、診断結果や異常状態をそれぞれこの4つのステータスに割付けて集約することを定めたものです。表示上の色や形なども定めていますから、ユーザーのとるべきアクションが容易に決められます。診断結果や異常状態を、4つのステータスのどれに割付けて集約する(マッピングする)かは、プラントやユーザーによって異なります。したがって、NAMUR NE 107に準拠するためには、ユーザーがマッピングを設定できなければなりません。

(4)Device Variables with Status

デバイス固有のダイナミック変数をDevice Variablesとして統一的に管理(設定、校正など)します。Dynamic Variable(PV、SV、TV、 QV)へのマッピングが可能です。各Device Variableには、品質情報(Good、Poor、Bad、Fixed)が付加されます。
HART7では、Device Variable番号、244 = Percent Range、245 = Loop Current、246 = Primary Variable、247 = Secondary Variable、248 = Tertiary Variable、249 = Quaternary Variableが必須となりました。

(5)Multiple Analog Outputs

複数チャネルのアナログ出力の属性、ループチェックやトリミングなどの機能を統一的に管理する機能です。

(6)Burst Message

マスタは、Burst Messageの条件を設定しBurstモードにします。スレーブ機器は、条件が満たされたとき、自動的にMessageを発信します。マスタから要求メッセージを送信することなく、Burst Messageを受信するだけで、スレーブ機器のプロセス値や診断情報を収集できます。WirelessデバイスやAdapterでは必須機能です。

(7)I/O Systems and Sub-Device

HARTネットワークをサポートするI/O Systemです。I/O Systemは複数のI/Oカードを持ち、各I/Oカードは、複数のHARTサブネットワーク・チャネルを持っています。さらに各HARTサブネットワークは1つ以上のサブ・デバイス(HART Slave Device)で構成されます。サブ・デバイスとの通信は、I/O Card番号、チャネル番号、サブ・デバイスのアドレスを用いて行われます。AdapterやGatewayでは必須機能です。

(8)Block Data Transfer

マスタとスレーブ間で、Portをオープンし、コネクションを確立した後、データをストリーム伝送する機能です。これにより高速に多量のデータ伝送が可能になります。

(10)Event Notification

Event Notificationは、デバイスのステータスの変化(Event)を発信します。監視するステータスは、Device StatusとAdditional Device Statusです。それらの中で監視が必要なステータスを選択します。また、発信のタイミングを指定することができます。Eventの確認コマンドを受信するまで、繰り返し発信します。

(11)Data Trend

デバイス変数の値を指定周期で収集し、デバイス内のトレンドバッファに保存します。保存したトレンドデータを読み出すことができます。

(12)Synchronized Device Actions

設定条件に同期して、自動的に指定コマンドを実行するための機能です。

(13)Read Aggregated Command

オーバーヘッドの低減や通信速度の向上のために、複数のHARTコマンドを一回の通信で実行するためのコマンドです。Wirelessデバイス、AdapterやGatewayでは必須機能です。

(14)Catch Device Variable

同じHARTネットワーク内にあるデバイス間でのデータの共有を可能にします。すなわち、他のデバイスのプロセスデータを用いて、自己のプロセスデータの計算を行うなどの機能を実現できます。

(15)Wireless

無線通信に関わる、物理層、データリンク層、ネットワーク層、ネットワーク管理層の各層のコマンドを定義し、WirelessHARTネットワークを実現しています。WirelessHARTネットワークにおいては、無線対応したデバイスも当然ですが、Gateway、Network Manager、Adapterが重要なコンポーネントになります。Gatewayは、上位のシステムとWirelessHARTネットワークを接続します。Network ManagerはWirelessHARTネットワークの各種管理を行います。Adapterは、無線対応していないHART機器をWirelessHARTネットワークの世界に導きます。

*  *  *

HART7において、Wirelessデバイス、I/Oシステム、サブ・デバイスなどサポート範囲が拡大され、以上のように大幅な機能アップがなされました。
フィールド機器のネットワーク化において、ますます重要な通信方式になってくるでしょう。

*1 NAMUR:An international association of users of automation in process industries
   1949年ドイツで設立。設立時の主体は化学・薬品製品のメーカー、ユーザーである。
   2014年現在137社が加盟している。
   http://www.namur.net
*2 NE 107(2006-06-12):フィールド機器の自己監視・診断機能に関する要求仕様。

【(株)エム・システム技研 開発部】


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