エムエスツデー 2006年5月号

計装豆知識

電力の基礎(その1)印刷用PDFはこちら

交流と実効値

図1 直流と交流の100V

我々が身近で使用する電気としては、乾電池、蓄電池などから供給される直流(方向と大きさが常に一定の電圧)と一般家庭のコンセントに電力会社から供給される(単相)交流(時間とともに正弦波状に方向と大きさがサイクリックに変化する電圧)の2種類があります。

直流と交流の大きさの関係を理解するために、白熱電球(抵抗負荷)を光らせる場合を考えてみましょう。電球を同じ明るさに光らせるには、直流でも交流でも同じ大きさの電力が必要であって、定格が100Vの電球に100Vの直流電圧を加えたときと同じ明るさで、その電球を交流によって光らせるためには、100×√2=141(V)の振幅の交流電圧が必要です。ところで、実質的に同じ効果を生ずる直流電圧と交流電圧の大きさは、共通の値で表現するのが便利ですから、直流100(V)と実効的に同一な、振幅141(V)の交流電圧を「実効値100Vの(交流)電圧」と表現します。家庭のコンセントで得られる交流100Vはこの実効値で表現されています(図1)。

位相差と力率

図2 電圧と電流の波形

抵抗以外に、コイル(インダクタンス)やコンデンサ(キャパシタンス)が存在する機器(負荷)に交流電圧 e を加えると、流れる電流との間に位相差φが生じます。インダクタンス性(インダクタンス+抵抗)負荷に流れる電流 i L は、e に対して遅れ位相になります(図2)。

直流の場合、電圧Vと電流Iを掛けたものを電力といいます。

 P VI

電圧の単位はV(ボルト)、電流の単位はA(アンペア)、電力の単位はW(ワット)です。

交流の場合は、変動サイクル全体に渡って瞬時電圧と瞬時電流の積を求め、それを平均したものを有効電力(実効電力または単に電力)と定義し、(1)式のように表します。

 PVe Ie ・ cosφ …(1)

Ve は電圧の実効値、Ie は電流の実効値で、VeIe を皮相電力(単位はVA:volt-ampere、ボルトアンペア)といいます。

ここに示されているcosφを力率と呼びます。φは電圧と電流の位相差です。

直流にはその本質からいって位相はありませんが、交流には位相があります。電圧と電流の位相差が大きくなると力率が小さくなります。

図3 皮相電力ー有効電力-無効電力(遅れ位相の場合の図)

ヒータや白熱電球などの抵抗負荷では、力率は1(φ=0、位相差ゼロ)なので、直流と交流の電力は同じ式で表されます。蛍光灯やモータなど、コンデンサ(キャパシタンス)やコイル(インダクタンス)の負荷では、電圧と電流の間に進みまたは遅れの位相差が発生するため、有効電力だけでなく無効電力(単位はvar:volt ampere reactive、バール)が生じます。コンデンサやコイルでは電力を消費しませんが、電力のやり取りは行われます。このやりとりによって配電線で電力は消費されますから、位相差が大きいほど電力を有効に利用できないことになります。

どれだけの電力が有効に使われたかを表す比率が力率(cosφ)です(図3)。

コイルに交流の電圧を加えると、電流の位相は90°遅れます。モータなどのインダクタンス負荷では位相が遅れます。遅れとは電圧に対して電流の位相が遅れるという意味です。φの値はプラスになります。

【(株)エム・システム技研 開発部】

ページトップへ戻る