エムエスツデー 2007年10月号

計装豆知識

パネル計器の裏側の感電保護印刷用PDFはこちら

パネル計器の安全規格としては、一般に IEC 61010-1「計測、制御及び試験所用電気機器の安全要求事項」が用いられます。そして、この安全規格では感電に対する保護が要求され、通常の使用状態で危険な電圧を帯びた部分に指で触れることができてはいけません(危険な電圧とは、IEC 61010-1の場合は 33V r.m.s. かつ 46.7V peak または、70V d.c. を超える電圧です)。

つまり、内部にある、または外部から入ってくる危険電圧に触れることができないように筐体や絶縁物などで保護されていることが要求されます。

しかし、パネル計器の場合は、製造業者が発行しているマニュアルの指示に従ってラックやパネルに取り付けられ、使用者はパネルの正面にいることを想定することが規格で決められています。つまり、取り付けた後、パネルの裏側やラックの内部にかくれた部分に対しては、感電に対する保護要求が規格にはありません。

たとえば、パネル計器の裏側のターミナルには危険な電圧が印加されるかもしれませんが、単純に規格を解釈すれば保護の必要はないといえます。このようなことは、よく使われる他の規格、IEC 60950-1、情報技術機器の安全性でも同じです。

では、パネルの裏側やラックの内部には感電に対する保護は必要ないのでしょうか?

使用者がパネルやラックを開けることもあるでしょうし、何よりもメンテナンスを行う技術者に対して保護がないのは、いくら技術者が電気に対する危険を熟知しているとしても危険です。規格に要求がないとしても、危険な要素は取り除かれるのがより安全な製品ではないでしょうか。

そこで、パネル計器の業界ではドイツの VDE 0106-100 (英訳タイトル: Protection against electric shock actuating members positioned close to parts liable to shock)という規格に準拠して、パネル計器の裏側の感電保護を行ってきました。現在ではこの規格はVDE 0660-514(英訳タイトル:Protection against electric shock. Protection against unintentional direct contact with hazardous live parts) に移行しています。

また、EN 50274として CENELEC が作成する欧州規格にも取り入れられています。タイトルを訳すと、「感電に対する保護、危険電位部への故意でない直接接触への保護」となります。この規格の特徴は、感電に対する保護の対象が一般ユーザーではなく熟練した技術者であることです。

また、対象となる機器は、ドアやカバーを鍵やツールを使って開けたときのみ、触れることができる機器と規定されています。さらに、上記のタイトルが示しているように、故意に危険電圧に触れるような行為に対する保護は必要ないとしています。

つまり、一般ユーザーに対するような念入りな保護ほどではないが、電気の危険を良く知っている技術者に対する程度の保護を行う、という規格です。

この規格に準拠しているエム・システム技研の製品の例として、開発中のデジタルパネルメータ 47シリーズをご紹介します(図1)。

裏側のターミナルはプラスチックのカバーで覆われており、危険電圧が印加されたターミナルへの指による接触が阻止されています。このカバーは、はめ込み式で手で外せるようになっています。

IEC 61010-1 の要求では、オペレータが手で取り外せるカバーは感電に対する保護とはみなされませんが、VDE 0660-514 の場合は、手で外せるカバーでもかまわないと解釈されます。

図1 デジタルパネルメータ47シリーズ

【(株)エム・システム技研 開発部】

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