エムエスツデー 1995年10月号

計装豆知識

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クロスリミット制御はボイラや燃焼炉の燃焼制御において、空気と燃料の流量比率をいつでもほぼ一定の狭い範囲に抑えるための制御方式です。

図1 燃焼における空気比と熱損失・熱効率の関係

燃焼制御において、空気が少なすぎれば燃料は不完全燃焼しますので、黒煙を発生します。これによりエネルギー損失が発生しますが、それよりも公害の方がさらに大きな問題となります。しかし、これを気にして空気量を多めにすると、排ガス量が増加し、排ガスを加熱した熱量は煙突から無駄に放出されます。

このように、最適の空燃比はある狭い範囲にあり、この範囲内に保つことが必要になります。この様子を図1に示します。なお、空気比というのは理論上燃料を完全に燃焼させるために必要な空気量と、実際に燃焼用として送り込まれる空気量との比を言います。適切な空気比は、燃料によって異なりますが、理想的には1.02~1.10とされています。 一方、燃焼制御においては、負荷(たとえばボイラなら、発生させたい蒸気量)の変化に応じて発生熱量、すなわち燃料を増減させなければなりません。このとき、空気流量と燃料流量の変化の仕方が完全に一致していれば良いのですが、実際にはどちらかが遅れます。そのため、一時的に空燃比は適正値より大きくなったり、小さくなったりします。前述のように、これは好ましくないことなので、過渡的な状態でも適正な空燃比を保つことが必要になります。クロスリミット制御という手法は、このような背景から生まれたものです。

図2 クロスリミット制御

ボイラにおけるクロスリミット制御のシステム構成例を図2に示します。

定常時は、燃料流量と空気流量は空燃比設定器によって所定の比率に保たれています。この状態では、図2の正バイアス、負バイアス演算器を通ってきた信号は、ハイセレクタ、ローセレクタにブロックされ、燃料および空気流量調節計に影響を与えません。しかし、ボイラの負荷が増加すると蒸気圧力は下がるので、蒸気圧力調節計はこれを回復させるべく、出力C を増加させます。このとき、燃料流量調節計の目標値は、ローセレクタによって上限はA に制限されます。すなわち、バイアスb1 しか増加が許されず、これ以上は空気流量が増加しない限り、増加しません。一方、空燃比設定器への入力は、ハイセレクタを通して蒸気圧力調節計の出力C がそのまま与えられます。すなわち、空気流量が先行して増加し、黒煙の発生を防ぐことができます。しかし、空気があまり多く入るとエネルギーの損失となるので、ローセレクタによりこの上限はD(燃料流量+b3 )に制限されています。このように、燃料流量と空気流量は互いに制限し合いながら、階段状に増加して行きます。一方、負荷が減少するときは、燃料流量は自由に減少しますが、空気流量はB 以下になることは許されません。したがって、空気流量の減少は遅れ、その結果黒煙の発生を防ぐことができます。


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