エムエスツデー 1994年6月号

計装豆知識

PTですか、VTですか?(計器用変圧器の略称について)印刷用PDFはこちら

送変電、受配電など電力関係の様々な設備で交流高電圧を測定するとき、まず電圧を正確な比率で大幅に降圧して、測定しやすい電圧に変換する必要があります。このとき用いる変圧器は、電力伝送用変圧器と区別して計器用変圧器(Potential Transformer)と呼ばれ、図面の中などでこれを表す略称としてはPTが統一的に使われてきました。最近この計器用変圧器をVoltage Transformerと呼び、VTで略称する例が現れています。

古い話になりますが、初めてPTという表現に出会ったときには少々奇異に感じたことを覚えています。Potentialという言葉はご存じのとおり電位と訳され、一般に基準電位に対する電位差(Potential Difference)は直流電圧を示すことからも直流に関する言葉と考えていました。それが、いきなり交流電圧について使われていたため戸惑ったわけです。しかし、計器用変圧器を電力伝送の際使われる一般の変圧器(Voltage Transformer)とは区別して表現するため特にPotentialという言葉が採用されたものと自分に納得させ、それ以後特別違和感をもつことなく過ごしてきました。そこにもってきて、VTという新しい言葉が現れたため再度驚いたというのが実情でした。

このような戸惑いを感じられる方も多いのではないかと考え、VTという表現が現れた背景について調べたので、概要をご紹介したいと思います。

簡単に結論を言えば、従来からPTとVTは共に存在し、PTは主としてアメリカで、VTは主としてヨーロッパで使われていたのです。いわば、米語と英語の差のようなものです。日本ではアメリカにならい、JISでPTが採用されたことから、従来完全にPTで統一されてきたわけです。

ところが、最近の国際的規格統一の進行に伴い、IEC規格への整合を目的としてJIS C1731(計器用変成器)が1988年に改訂され、その解説の中でVTの使用を推奨しているという経過があります。ただし、現在のところ関連するJISがすべてVTに切り替えられているわけではなく、JISだけとってみても過渡的状況にあることがわかります。つまり、方向は示されていますが、VTに統一されたわけではなく、当面PTとVTの併用を予想しているとも考えられます。

現在、アメリカでも日本でもなおPTが一般的であり、今すぐVTに変更する必要はないというのが私の結論です。たとえば、エム・システム技研にはPTの出力を計装用直流統一信号に変換するPT変換器という製品がありますが、この名称を直ちにVT変換器に改めることは不要な混乱をもたらす恐れがあり、かえって望ましくないと考えています。ただし、このような事情を十分承知のうえ、今後の状況に応じて、それぞれに必要な処置をとるべきでしょう。

JISは強制力をもちませんが、日本国内での用語統一の根拠として重要な意味をもっています。したがって、このように広く一般に使われている技術用語を変更するときには、単位系の変更とまではいかなくても、ある程度の移行期間をとって関係JIS間で統一を図ると共に、周知徹底のためにもう少しきめ細かい広報を行ってもらえるよう配慮が希望されます。そうすれば、混乱が少なくスムーズに受け入れられるのではないでしょうか。

配電盤 単線結線図の例


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