エムエスツデー 2019年4月号

設備と計装あれこれ

第10回
計装工事の進め方2
(海外での建設工事経験とそこで得られたシンプルさの追求)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 計装工事は手順を追って進めることと、性能確認を丁寧に行うことが大切であることを前回述べました。今回は筆者の海外での建設工事で得られた経験で、ここでお話しするのは、中国山東省において製紙の主要設備である抄紙機のリニューアル工事に関与したときのことです。今から20年くらい前のことになりますが、建設の基本的なことは現在でも変わっていないと思います。製品の品質向上を図るために既存設備のいくつかの要所に最新式の機械設備を導入し、それと同時に計装設備や制御も最新のものに入替える改造工事で、全体的に見ると既存設備があるところに新規に設備を導入するとき、どういうところを気に掛けるべきであったかを反省を含めてご紹介します。

海外では部材の調達が限られる

 まず基本計画を立て、計装設備仕様書、ループ図、場合により工事図までを作成する。ここまでは従前と同じで問題はその後です。最初の判断箇所は部材の調達をどうするかです。工事は現地工事業者がするとして、国内から持ち込む範囲をどこまでにするかです。ここで採った方式は一般計装機器(調節計などのパネル計器、測定機器、調節弁など)は極力現地調達としました。現在はもとより当時でもこれら計装機器類は日本のものに比べても性能はほぼ同等であり、この判断による問題は発生しませんでした。ただ部品の材質とくにステンレス鋼管によいものがなかったこと、電線管工事では継ぎ手やプリカチューブがないか、あっても防水対策がされていないことなどがあり、工事の完成度は見た目の美しさを含めてあまり高いとはいえませんでした。

規格が違う、合わない

 これですべてうまく進むであろうと考えましたが、一つ問題がありました。配管のフランジや継ぎ手の規格が違うことをうっかりしていました。日本から持ち込んだ機械類、パネル前面取付の切替えコックなどの配管取り合いが現地品と合いません。日本はJISで統一されていますが、海外ではANSIやDINなどです。そのためフランジの相手や、ねじ切りが合わないなどの問題が発生し、現地製作加工で対応すればよいのでしょうが、事前に準備や予想をしていない現象が発生すると時間がかかり工程を圧迫します。それで何かのついでに帰国して相手フランジを持って運んだということもありました。図1は簡単な配管工事の例ですが、ポンプやバルブの接続には注意を要します。最近多くなったウェハ型は何とか逃げることができます。要は工事の事前準備は周到にということに尽きますが、その頃工事はその場で何とかなるだろうと考えていました。実際は細かい工事の段階でミスやトラブルは少なからずあり、大事に至らずに無事工事完成を迎えたのが後から考えると不思議なくらいです。 図1 配管工事は規格に要注意

教訓はシンプルな方式の追求

 得られた教訓は極力難しい工事方法を採用しないことです。例としては流量、圧力、差圧計測などに導圧管を用いる差圧(圧力)伝送器方式をできれば採らないことです。理由としては継ぎ手からの漏れ、ドレンポットのレベル調整など工事上注意すべきところが多いからです。なかなか蒸気の差圧が立たなかった記憶があります。それと制御弁ですが、当時は空気式アクチュエータが当たり前でしたが、現地品のものは機構が複雑でした。

【コラム】信頼性とは

 計装の世界では精度が重要視されますが、必要とされる精度を継続できることが大切で、このことを信頼性の維持といいます。これは生産設備の計装の使命として究極のテーマですが、見方は時代と共に変化してきている面があります。当初仕様を満足して壊れなければよかったものが、工事が簡単である、それによって信頼性が維持できるというような選択肢も出てきているようです。センサについてもより測定原理がシンプルなものがありますし、工事配線も通信手段の進展により無線化も視野に入ってきているようになってきました。このように信頼性は総合力で判断されます。

重慶のゴミ焼却プラント調査

図2 サーボトップ®2の大形ダンパ駆動  今回紹介した海外の工事経験はだいぶ前のことですが、昨年(2018年)1月に中国内陸の重慶にあるゴミ焼却発電プラントを調査する機会があり、これは因みにエム・システム技研の仕事でした。中国各地ではこのような設備の建設が現在多く進んでいるようです。短い時間の調査でしたが、焼却設備の燃焼用空気量の測定に渦式流量計を使用していましたし、制御弁の駆動は空気式ではなく、電動式を採用していました。前述のように差圧式流量計では導圧管工事がありますし、空気式駆動の制御弁にはプラントに大型の空気圧縮機や脱湿装置、空気配管を必要とします。計装設備はすべて信頼性の上に成り立っていますので、従来このようなやり方が国内では主力でしたが、ここでは総合的に判断して工事がシンプルな方を選び、なおかつ信頼性も得られるものを選んでいることになります。
 さてエム・システム技研の電動アクチュエータ「サーボトップ®2」の宣伝と紹介をします。前述のゴミ焼却プラントでは一般の制御弁に加えて大口径ダクトの燃焼空気量を制御する大形ダンパの駆動にも採用されていました。図2に示されるように何枚かあるダンパブレードを従来の方式では連結リンクで接続し大形の空気式パワーシリンダーで駆動していましたが、個別に電動式で駆動する方式は機器の信頼性、高性能があってできることです。従来の方式に捕らわれない全電動式アクチュエータによるゴミ焼却プラントは、これからの計装工事を象徴するものといえます。


ページトップへ戻る