エムエスツデー 2018年1月号

設備と計装あれこれ

第5回
熱の世界(その不思議な働きと省エネ利用の拡大)

(株)エム・システム技研 顧問 柴野 隆三

はじめに

 プラントの構成には多くの要素が関わっています。設備計画の際には基本仕様を作成する段階で、流体仕様や材質選択などを考慮しますがもう一つ熱があります。今回はその熱の世界について考えてみたいと思います。熱は地球規模では大気の大循環がありますが、工学的には流体熱伝達や部材の耐熱強度などが対象となります。具体的にはボイラーや熱交換器などの装置類が考えやすいでしょう。プラントを設計するとき材料強度では構造上複雑な要素が絡むため安全率を高めにとりますが、これに対して熱設計は少し様子が違います。性能を発揮できるかどうかがテーマとなり、効率がよく論議されます。昨今省エネルギーや地球温暖化対策が話題となりますが、あとで少し触れてみます。

熱の持ついくつかの特徴

 (1)タービン発電の熱利用
 生産工場では熱の供給源として通例蒸気ボイラーを使用します。蒸気は熱源として利用しやすく製造過程で直接加温することもありますし、熱交換器を使って間接的に対象流体を加熱することもできます。小規模なケースで使用される電気ヒーターなどよりも一般的です。ボイラーの熱計算は難しそうに見えますが、燃料使用量、供給水流量、発生蒸気温度などいくつかのポイントを押さえることで容易に確認できます。このように熱設備は大きいところを押さえてから詳細設計にはいることができるので基本的に的外れな設備が計画されることは少ないといえます。
 一方でタービン発電は熱エネルギーをすべて電力に変換するのは困難です。製紙工場の紙乾燥過程では蒸気ドライヤーを使用していますが、多くの工場において図1のようにボイラーで発生した蒸気はタービン発電機で発電をしてその後に生産工程で加温に使う方式が採られます。これはコージェネレーションといわれる手法であり、エネルギー効率の改善につながり、今でいうエコの取組みが以前から取られてきています。
図1 蒸気タービン発電の熱利用

【コラム】コージェネレーションとは

 略してコージェネまた熱電併給システムともいわれ、発電を行うとともに余剰の熱を生産工程で加温に使う方式をいいます。火力発電所の効率は目的が発電だけですと40%程度までしか上げることができません。これは高真空まで蒸気を膨張させて発電するために復水器で熱量を排出するためです。これに対してエネルギーの高い領域で発電して低いところは生産プロセスで加熱に利用することでエネルギー使用効率を高めたものが生産工場でのコージェネといわれるものです。このほかにガスタービン発電や燃料電池なども発電に伴って発生する熱を利用し、コージェネと呼ばれています。一方太陽光発電やバイオマス発電などは再生可能エネルギー利用に分類されています。

 (2)断熱膨張について
 熱の挙動を知る際役立つものの一つに断熱膨張があり、これについて筆者の経験を交えてお話しします。製紙工場で反応塔の一つである蒸解釜の圧力を調整するために通常の計装エア圧よりも高い10気圧前後を作るエアコンプレッサがあります。工事完成後の試運転をしていたとき圧縮エアを一時貯留する空気槽付き安全弁から高圧エアが吹き出すということがありました(図2参照)。その際エアが一気に解放されて、安全弁後の短い排出管の外側に厚い氷が瞬く間に成長して張り付く現象を目撃しました。これは空気の断熱膨張と呼ばれる現象で、理論上10気圧27度(摂氏)のエアが一気に大気圧まで膨張すると温度はマイナス118度まで降下します。それで急激に冷やされた配管の外側に大気中の水分が一気に付着して氷となったものです(昔家庭にまだ冷蔵庫が普及していないころ、牛乳屋や肉屋さんで見る大型冷蔵庫はもの珍しく、この周囲配管で目にしたような氷の付着と同じです)。 図2 反応塔加圧エア系統図

新たな熱利用

 (1)ヒートポンプ
図3 ヒートポンプの仕組みと利用例  熱の不思議な挙動である断熱膨張とその逆の断熱圧縮をサイクル化したものが冷凍機です。熱は高いとこから低いところに向かって流れその逆はないのですが、冷凍機は周囲よりも低い温度を作ることを可能としました。さらには冷凍機を逆のサイクルで回すことで加温や暖房ができるようになりました。ポンプが低いところにある水を高いところに持ち上げるように、低い温度のものから熱を吸い上げ高いところに移動させる熱機関はヒートポンプと呼ばれます。ここで一つ注目すべき点は、水を高いところへ持ち上げるポンプは加えたエネルギー以上のことはできませんが、ヒートポンプは加えたエネルギー以上に熱の移動を行います。この比率を成績係数(COP)と呼び家庭用のエアコンで通常4~5倍の熱移動を行います。図3にその仕組みの一例を紹介しますが、要点は膨張弁から一気に気化する冷媒が熱を奪っていくところにあります。先ほどの断熱膨張の理論によるものです。蒸発器で熱源となる媒体よりも低い温度の冷媒へと熱は流れ、コンプレッサで加圧された後は凝縮器で高温になった冷媒から外部へ熱が放出されて、あたかも熱が低いところから高いところに流れていくように見えます。

 (2)省エネやエコの取組み
 ヒートポンプは熱源に再生可能エネルギーを使ったものなど今後ますます利用拡大が図られる分野です。かねてより生産工場では省エネが大きなテーマであり節電や効率改善など数多くなされてきています。省エネは主にエネルギー消費側で取り組まれてきましたが、今後はそれに加え燃料革新としてバイオマスや廃プラの利用、燃料電池、それから自然エネルギーとして太陽光、風力、地熱発電など新しいテーマが数多くあります。簡単な絵を図4に書いてみました。製紙のまちといわれる静岡県の富士地区には大量の富士山の伏流水があります。水には恵まれてきましたが、エコの取組みとして安定した地下水熱を利用する試みが始まりつつあります。 図4 新エネルギー活用


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